歌うボランティア駅長、北垣美也子さん
歌うボランティア駅長、北垣美也子さん
列車の中で行われたCD発表コンサート。車窓には北垣さんお気に入りの田園風景が広がる
列車の中で行われたCD発表コンサート。車窓には北垣さんお気に入りの田園風景が広がる
ライブ前、北条町駅のホームで利用者を迎える北垣さん
ライブ前、北条町駅のホームで利用者を迎える北垣さん

 2016年7月1日、兵庫県南部を走る第3セクター、北条鉄道(兵庫県加西市)が運行する列車内で、ある女性歌手のCDデビューを記念したコンサートが開かれた。

 白いシャツに黒いパンツとエプロン姿、頭に黒い帽子をかぶった女性が車両の中央に立ち、笑顔でアップテンポのデビュー曲「生きてるって素晴らしい」を歌い出す。両端の座席に座った観客らは、カメラやスマートフォンで撮影しながら、伸びやかな歌声に聴き入っていた。

 女性は2曲を歌い終え、観客に語りかけた。「ご乗車いただきありがとうございます。まさか自分がCDを出し、人前で歌うことになるとは思いませんでした」

 今年6月にCDデビューを果たした北垣美也子さんは、北条鉄道・法華口駅(加西市)のボランティア駅長。さらに、同駅舎内にあるパン工房「モン・ファボリ」の店長でもあるのだ。コンサートは始発の北条町駅から終点・粟生駅を折り返す貸し切り列車内で行われ、法華口駅に停車した際は、常連の男性が飼い犬と応援に駆け付けるなど、多くの人たちが窓の外から手を振っていた。

 北条鉄道は、国鉄の赤字ローカル線を引き継ぎ、1985年に営業を開始。2006年度から、駅の維持管理をしながら、特技や趣味を生かして同鉄道を盛り上げてもらおうと、ボランティア駅長の募集を始めた。今では北垣さんを含む約20人が、駅舎での婚活相談や僧侶による法話、切り絵教室、駅周辺のボランティアガイドといった個性的な活動を繰り広げている。現在も、16年8月20日まで第6期のボランティア駅長を募集中だ。

 同社によると、ボランティア駅長効果か、06年度は約31万1000人だった利用者数が、15年度には約35万人まで増加。始発から終点駅までを1往復2万2000円で利用できる「貸し切り列車」も人気を集めているほか、「応援隊」として立ち上がった地元住民の協力を得て、「おでん列車」などのイベントを成功させてきたかいもあり、2015年度 の営業収益は過去最高を記録したという。

 ボランティア駅長の中でも、北垣さんのように歌手、パン工房店長と三足のわらじをはく人は珍しい。パン工房がオープンした12年11月から店長を務めている北垣さん。オープン準備中にボランティア駅長の募集を知り、「地域のために何かできれば」と手を挙げ、12年9月に就任した。

 当初はパン工房で働きながら、時間を作って駅の清掃などをしていたが、やがて「列車に手を振ろうかな」と考えるように。上司の許可を得られたため、パン工房が営業している午前10時~午後4時の間、列車が発着するたびにホームに出て手を振るようになったという。

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