ホームで右手を挙げて列車の見送り、出迎えを続けるうちに、乗客から手を振られたり、会釈されたりすることが増えた。列車の運転士も窓を開けて話しかけてくれるように。「車窓越しのコミュニケーションがうれしい」(北垣さん)。のどかな田園風景をバックに、笑顔で手を振る北垣さんの姿は話題となり、法華口駅には、いつしか鉄道ファンらが撮影に訪れるようになった。

 北垣さんは、幼いころから歌うことが好きだったという。高校時代は合唱部で活動し、卒業後、進学先の専門学校があった東京では、「新都民合唱団」にも所属していたこともある。そして16年春、たまたま訪れた姫路市内のカラオケ喫茶で、音楽プロデューサーの小谷繁さんからCDデビューを持ちかけられた。

 北垣さんは最初、「ボランティア駅長とイメージが違うのでは」と戸惑ったという。周りからは「それって大丈夫?」と心配された。しかし、「やってみたい」という思いが強くなり、「マイナスにはならないはず。自分を信じてやろう」と、デビューを決めた。16年5月に緊張しながらレコーディングに臨み、6月にCD「生きてるって素晴らしい」(税込1300円)が発売された。

 7月1日のコンサートは、顔見知りの利用客やファンらでにぎわった。よくパン工房を利用するという40代の会社員男性は「CDを買って聴いたが、生歌も普段と違った雰囲気で良かった。またこういうイベントをやってほしい」とうれしそう。小谷さんは「彼女の魅力である、素直な人間性がにじみ出るような、癒やされる歌声を多くの人に知ってもらえればうれしい」と話す。

 北垣さんは、「大好きな歌を歌うことで、自分も癒やされている。『人生で行き詰っていいても、自然が癒やしてくれる』という曲の世界観を伝えたい。ボランティア駅長やパン工房との三足のわらじは大変だが、一生懸命、真剣に取り組みたい」と意気込む。

 CDはパン工房などで販売されている。1915(大正4)年に建てられた法華口駅の木造駅舎は趣があり、国の登録有形文化財にも指定されている。北垣さんの笑顔の出迎えを受けに、訪れてみてはいかがだろうか。(ライター・南文枝)