『暮しの手帖』は広告を一切掲載せず、花森はイラストやデザイン、写真撮影などの指揮も執った。また、「商品テスト」では、身近な生活必需品を取り上げ、徹底的に製品の性能や耐久性などを比較した。テストの方法は、家庭での使用方法に準じて工夫した。商品テストの影響力は大きく、製造元は、1位になれば喜ぶが、よくない結果が出た場合は泣きつかれたり、脅されたりもしたらしい。


 
 商品テストによって、国産メーカーの技術を高める結果を生んだこともある。外国製の石油ストーブを1位とし、国産品の安全性に疑問を呈していたところ、テストを重ねる間に国産品が外国製の品質に追いつくという結果が出た。

 花森は、社長の大橋を含め、『暮しの手帖』の編集者を、厳しく鍛え抜いた。原稿を依頼する際、作家や、学識経験者、政治家など著名人宅を訪れる際には、「髪と爪と靴をきれいにしていき、女中さんに対しても奥さまだと思って丁寧にあいさつしなさい」と指導した。

 また、ある時、花森は大橋に色見本を見せ、「これと同じ赤い布を探せ」と指示した。探し回っても見つからなかった大橋が、「白黒写真で撮影するのになぜ、この赤ではいけないのか?」と聞いたところ、花森は「間もなく、雑誌にカラーの時代が来る。編集者にカラーの感覚がなくてどうする。勉強だ」と叱りつけたこともあったらしい。

 評伝のカバーに載った花森の写真は、唐沢とは全くタイプの違う、いかつい顔だ。肩まである髪にパーマをかけている。失礼ながら、男性が女装したかのようにも見える。実際、「スカートのような幅の広いキュロットや、スコットランド兵でおなじみのキルトをはいていた」などの証言もある。花森自身も、“スカート疑惑”を否定しなかったらしい。「男性は背広を着なければいけない」という風潮に、抵抗していたともいわれている。

 唐沢演じる花山と常子の戦時下のドラマや雑誌発刊への道のりは? 名物編集長のファッションにも注目しながら、展開を見守りたい。(ライター・若林朋子)