日常的に食べているものを備蓄する
日常的に食べているものを備蓄する
横浜・災害食グランプリ「ごはん類」でグランプリとなった尾西食品の「おにぎり・鮭」写真提供/尾西食品
横浜・災害食グランプリ「ごはん類」でグランプリとなった尾西食品の「おにぎり・鮭」写真提供/尾西食品
「缶詰・セット類」でグランプリとなった非常食研究所の「備蓄王」写真提供/(株)非常食研究所
「缶詰・セット類」でグランプリとなった非常食研究所の「備蓄王」写真提供/(株)非常食研究所
災害食として売られていなくても、おいしい缶詰も詰めておけばいざというときのごちそうにもなる。こちらは宮城県「木の屋石巻水産」の名産品金華サバ。ラベルは復興支援団体「希望の環」とのコラボ。
災害食として売られていなくても、おいしい缶詰も詰めておけばいざというときのごちそうにもなる。こちらは宮城県「木の屋石巻水産」の名産品金華サバ。ラベルは復興支援団体「希望の環」とのコラボ。

 9月1日は防災の日。1923年(大正12年)に関東大震災が発生した日である。世界でもまれなプレートの重なり合いの上にあり、近年では各地の火山が活性化する火山国でもあるわが国。災害への備えは常にしておくべきである。

 まず取り組みたいのは備蓄だ。東日本大震災でも、発災直後、支援物資が届くまで食事に苦労した話は広く伝えられた。内閣府では、家庭でもひとりにつき3日分、さらにできれば1週間分の食事と水を備えておくことを推奨している。さて、ではどのようなものを備蓄するべきか?

 備蓄を整える上で意識したいのは「日常的な味」と「ローリングストック」というキーワードだ。

「発災直後の1日目は、極端に言えば水とブドウ糖だけでも大丈夫なんです。エネルギーは取れますから。しかし2日目以降に、1日3回も食べ慣れないもの、おいしくないものしか食べられないと、被災とは別のストレスが加わることになるんです」と語るのは、「自助、互助、公助」を基本に、地域社会のリーダーとして防災意識を高める活動を行い、「災害食グランプリ」などの防災イベントも主催している(一社)防災安全協会の北村博さんだ。

 非常時こそ、日常の味が求められる。乱暴に言うとカップ麺でもツナ缶でもやきとり缶でもなんでもいい。日常食べているものを多めに買い、ストックしておくのだ。「これを食べるとどんな味がするか知っている」ことが、非常時に安心と食欲をもたらしてくれる。

 だが、意外と賞味期限が短いカップ麺などを保管しっぱなしにすると、いざというとき期限切れのものを食べることになる。そこで「ローリングストック」だ。ローリングストックとは、簡単に言えば「ストックを使い回す」こと。備蓄を日常生活で食べて消費し、新しいものと入れ替えることである。こうすることで、ストックの味を把握できるし、賞味期限切れを防ぐことができる。

 しかし、普段インスタント食品を食べない家庭もあるだろう。その場合でも、最近では進化した美味な備蓄食がある。「横浜・災害グランプリ」(2015年8月22,23日横浜開催)でもそうした製品を見ることができた。出展しているメーカーは、「日常の味」「非常時でもおいしく」という2点を抑えた上で、賞味期限も長い製品を作っている。

 今回、「ごはん類部門」でグランプリに輝いた尾西食品の「おにぎり・鮭」は、アルファ米とは思えないもちもち感。具材の混ざり具合もよい。パッケージの外からおにぎり型に握ることができるので水が使えない災害時にも便利だ。

 また、「缶詰セット類部門」グランプリの(株)非常食研究所の「備蓄王」は、カレーや丼物などを発熱剤によって火を使わずに温めることができる。アレルゲンフリーのものもあり、アレルギーを持つ子供のいる家庭ではぜひ常備したい。

 アルファフーズ(株)では、筑前煮や肉じゃがなどの家庭の味をレトルトにした総菜の備蓄食や、インフラが回復し、お湯が沸かせるようになってから食べるフリーズドライのスープ(スープ類部門でグランプリ獲得)なども開発し好評を得ている。
 避難所や自宅での避難生活が続くと、嗜好(しこう)品で心を癒やしたいときもあるだろう。東京高木珈琲では、酸化を防ぐ真空パックのドリップバッグコーヒーと発熱剤のセットで80度のお湯を沸かし、コーヒーを飲めるセットを開発している。ほかにも栄養価が高い玄米を缶詰にしたものなどもあり、これらは日常で食べてももちろんおいしいし、いざというときも変わらずその味を発揮してくれる。
 
 ちなみに、神奈川県で東北支援と防災活動を展開するNPO法人かながわ311ネットワーク代表理事の伊藤朋子さん(58)に備蓄について聞いたところ、夫と2人暮らしの自宅に、水2ℓペットボトルを18本、カセットコンロ用ボンベ24本と、缶詰類、乾麺、インスタントラーメンなどを備蓄しているという。「東日本大震災以降、家庭の備蓄は重要と改めて思いました。随時、食べまわしているので、古くて廃棄しなければならないものはないですね」と語る。やはり、ローリングストックと日常の味を実践しているようだ。

「学校でも会社でも、防災訓練は行われますがそのときに“食の訓練”もした方がよいと思いますね。そこでおいしい災害食を試食して味や備蓄の重要性を知ることが大事です。最近では糖尿病患者用やアレルゲンフリーのものも増えていますから、ぜひ最新の災害食について知っていただきたいですね」(北村さん)。

 少々古いデータだが、厚生労働省が平成23年度に調べた結果では、何らかの非常食や食料を備蓄している家庭は47%にとどまっている。これからは1年に一度備蓄箱を開けて中を確認するのではなく、日常的に使い回し、ストックしていこう。
(島ライター 有川美紀子)