この意識改革は、パスの出し手だけでなく、受け手にも要求した。いつどのタイミングでタテパスが入って来るのか、前線の選手はボール保持者を常に意識しながら準備しておく必要がある。出し手と受け手がイメージを共有した本田の先制点はその好例と言えるだろう。

 守備に関しても理想は高い。ボールを失った瞬間に守備に入ることをどの選手にも要求した。「攻めるだけの選手」はハリルホジッチ監督の下では生き残れない。失った瞬間に守備に入り、奪い返せそうならアタックに行き、無理だと判断したらディレイ(攻撃を遅らせて)して味方のサポートを待つ。そして相手を囲んで奪えそうなら、ハイプレスで襲い掛かり攻撃に転じる。

 その好例が13分の攻守だ。右のスローインから本田、香川、岡崎とつないでドリブル突破を仕掛けたものの岡崎はボールを失ってしまう。しかし、柴崎と酒井宏、宇佐美で囲み、ボールを取り返すと、宇佐美がミドルシュートを放った。いわば、「攻撃的守備」である。これがハリルホジッチ監督の理想とするプレーでもある。

 カウンターといえば、自陣に引いてブロックを作り、相手のミスに乗じてボールを奪い速攻というイメージを抱きがちだが、ハリルホジッチ監督のカウンターは違う。高い位置からでもボールを奪う、果敢なアタックからの速攻なのだ。もはや、リアクション・サッカーの表現は当てはまらない。超攻撃的ともいえる「アクション・カウンター」と言えるだろう。

(サッカージャーナリスト・六川亨)