全く異なる文化と言語を持つ相手に落語を披露するにあたって、竜楽氏が取った手法があった。世界中の誰もが共通観念として理解できる内容を演目として選ぶこと。そして、言語を音として覚え、大阪風落語を彷彿させる上半身全体を用いた身ぶりと大げさな表情で演目を行うことだ。

「イタリアの講演では、短気な人と気の長い人が登場する『気の長短』と、知ったかぶりの人物に一泡吹かせる『ちりとてちん』を披露しました。どちらも国籍を問わず理解ができるテーマです」(竜楽氏)

 2日間にわたったイタリア語落語は大盛況で、子どもまでもが列をなして聞き入っていたという。この成功をきっかけに、積極的に海外公演を行うことになった。

「落語の魅力は、聞き手が想像を膨らましながらストーリーを描いていくという点にある。演目では左を向いて喋れば一人の役、右を向いて喋れば別の役という切り替えがあります。その描写は観客の頭の中で描かれるもので、その形が十人十色でも鑑賞の妨げにはなりません。落語は、知識や感性に違いがあっても『みんなで楽しめる』芸能で、日本文化の根底にある『おもてなし』の精神の現れと言えます。今後も落語と笑いを通じて日本の魅力を伝えていきたい」(同)

 来年は中国本土での公演も検討しているという竜楽氏。まさに、大阪の笑いは万国に通ず、である。

(ライター・柳澤大樹)