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ディープな方言絵本、なぜか海外から反響続々!?

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方言絵本『ほんとのかあちゃん』の島根版『ほんとのおかあちゃん』

方言絵本『ほんとのかあちゃん』の島根版『ほんとのおかあちゃん』

島根、沖縄の「翻訳者」と談笑するおおよどさん(中央)

島根、沖縄の「翻訳者」と談笑するおおよどさん(中央)

日本全国スーちゃんマップ

日本全国スーちゃんマップ

  日本各地の方言による創作絵本『ほんとのかあちゃん』が、なぜか海外でウケている。米国や英国などから注文があり、ホームページのアクセス件数もアップ。「何で!?」と思わずにはいられない。地元の人でないと理解できない、地方の、しかも高齢者しか話さないディープな言葉で書かれた方言絵本を、いったい誰が買うのだろう?

「海外勤務の長い駐在員? 嫁いだ女性? 学生? 日本に留学経験のある外国人? 私も米国に住んでいた時、日本語を聞くとものすごく懐かしくなりました。日本を『ふるさと』だと思う人が、方言を求めているのではないでしょうか」
  
作者のおおよどながらさんは、想像をかき立てられている。ホームページへのアクセス件数は5月以降、なぜか米国からがダントツとのこと。そこで、方言絵本ができた経緯について聞いてみた。

 おおよどさんは大阪市内在住のイラストレーター・漫画家。得意なのは「アメコミ風」の精緻で迫力のある画風だが、この絵本では、誰にでも親しみやすい絵で主人公の子ネズミ「スー」を描いている。いたずらをして「お前は橋の下で拾った子だ!」と親に叱られた思い出をモチーフとし、母と子が日常生活の中で愛情を確かめる内容である。普遍的で分かりやすいストーリーとしたのは、方言が難解で多様だからこそだ。

 おおよどさんが、生まれ故郷である山口県下関市の言葉で物語をつづったところ、友人から「ほかの地方の言葉でも作ってみては?」と助言を受けた。そこで、大阪在住の地方出身者や関西に住む友人・知人に依頼したところ、絵本を方言で「翻訳」するプロジェクトに発展した。

 福岡県(福岡市博多区)、秋田県(大館市)、奈良県(葛城市)、京都府(京都市)、沖縄県(南部)、岩手県(県央)、島根県(出雲市)、富山県(富山市)、岡山県(備前)……。2015年4月までに1府9県の絵本が完成し、現在は神奈川県(綾瀬市)、福島県(県北)、石川県(金沢市)の方言によるバージョンを制作中である。

 絵本の中の表現について、一つの県でも数通りの言い回しがある場合は、「翻訳者」が生まれ育った地域の言葉を採用し、解説で市町村名や県内のどの地域の方言かを明記している。

タイトルの『ほんとのかあちゃん』は、京都なら『ホンマのかあちゃん』、岩手は『ほんどのお母(か)ちゃん』、富山は『ほんとのかーか』、沖縄では『ふぅんとぅーぬーおかあー』となる。

 感情が爆発する場面では、方言の違いが顕著に現れる。スーが人形を壊してしまい、母親に「ばか者!」と叱られる部分を比べるとこうだ。

岩手「こばがたれ!」
京都「アホタレ!」
富山「だらぶっちゃぁ!」
沖縄「ふりぃむぅんが!」
共通した思いを読み取ることができる。

「翻訳者」は多くが出版業界とは無縁の主婦や保育士、教員などである。図書館で方言辞典を借りて調べ、祖父母や親、地域の高齢者などに取材したケースも少なくない。 

 隣県でも全く違う言い方になったり、山陰と北陸で似たような言い回しがあることを発見して「日本海側に共通した特徴だろうか?」と話し合ったり……。「翻訳者」同士が集まって読み聞かせを行うと、新しい発見や翻訳にまつわる苦労話などが披露され、お国自慢もあって楽しい。

 沖縄南部の言葉に翻訳したのは60代半ばの女性である。おおよどさんから依頼を受けた当初は「自信がない」と渋っていた。方言は沖縄芝居や組踊、琉歌、琉球民謡・島唄などの伝統芸能で使われているが、戦後生まれの「翻訳者」は方言をほとんど知らない。なぜなら「標準語励行運動」が行われたからだ。

 「5歳の時、『家の中で沖縄の言葉を使うな』と親から言われてね。今、ちゃんとした沖縄の言葉を話せる人は少ないです」とは翻訳者の弁である。辞書を片手におおよどさんと翻訳作業を進めた時、「どんどん、方言がなくなってきている……」と危機感を抱いたそうだ。

 『ほんとのかあちゃん』は電子本とオンデマンド印刷紙本、100%手作り紙本の3種類がある。海外からの購入はすべてインターネットによる注文である。

 おおよどさんの目標は「全国制覇」。スーのキャラクターグッズを作ったり、読み聞かせ会を開いたりしながら認知度を高め、作品に興味を持ってくれる人に出会えば「翻訳」を依頼している。

 幼いころ、いたずらをして「お前は橋の下で拾われた子だ!」と母親に叱られたあなた、お国訛りをお聞かせくださいませんか?

(ライター・若林朋子)


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