―― 山口さんは平成4(92)年に政界を引退し、いまは高齢者や元従軍慰安婦のための福祉活動を自身の舞台としている。

 私が昭和と聞いて、ぱっと思いつくのは、昭和天皇の「大喪の礼」のときの「音」なんです。

 私たち議員団は、新宿御苑で葬儀に参列したんです。おひつぎが近づいてくると、古式ゆかしい装束をまとった宮内庁の祭官の浅靴が砂利を踏む音が、ザック、ザック、ザックと原始の太鼓のリズムのように聞こえてきたんですね。それが、まるで素晴らしい音楽のように私の耳に届いて、あとは無の心境でした。

 えっ、重信さん?近くまた、東京拘置所に会いに行きます。こみいったお話なんてできないの。アクリルの遮蔽板の向こうとこっちで握手代わりに手を合わせたりして、とりとめのないお話をして、笑顔を見ることが精いっぱいで、それで帰ってくるのね。

どうやって生きていけばいいんだと言った少年たち、懸命に生きようとしている重信さん、そして私。ただ真摯に生きるだけです――。

(取材・構成/フリージャーナリスト・邨野継雄)

※この記事は週刊朝日2008年5月16日号より一部を抜粋・再構成したものです