『荒神』の挿絵(こうの史代) 
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 2014年4月までの約1年間、朝日新聞の新聞連載小説として、親しまれてきた宮部みゆきの『荒神』が8月20日に朝日新聞出版より単行本となって発売される。「念願の怪獣もの」である本作について、著者がインタビューに答えた。

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―印象的なタイトルも含め作品の着想はどこから?

宮部 今回はまず何より「念願の怪獣もの」ということでした。私は怪獣ものが大好きで、「ウルトラQ」から円谷プロに育てられた世代です。いつかは怪獣ものを書きたいと、ずっとその思いを持ち続けていました。
 でもどう書いたらいいのか難しくて。試行錯誤の中で、設定が現代から江戸に変わったり、韓国映画『グエムル』にヒントを得たりしながら、最終的に荒ぶる神というこのタイトルを思いついてようやく書き始められるという手応えを掴みました。
 あとは新聞連載の伝統ある枠で怪物が大暴れする話が許されるのかという心配もありました(笑)。でも面白いと快諾していただけて、そこからはトントン拍子で、とにかくとても楽しく書き続けることができました。
 読者の方には、それこそ60年代の映画『大魔神』のような、昔の特撮時代劇の持つレトロな雰囲気を楽しんでもらえたらという気持ちがあります。この初めての挑戦で、もし作品に怖ろしくもどこか懐かしい雰囲気がちゃんと出せているとしたら、題材に引っ張ってもらえたから、という気がします。あとは連載中の(漫画家の)こうの史代さんの挿絵の存在が大きい。どこかのどかで日本人の心をくすぐるようなすてきな絵を描いてくださいました。
 連載中の反響が大きく、お便りもたくさんいただいてありがたかったのですが、その多くに挿絵を褒める言葉も添えられていたんですね。私も本当に同感だったので、今回私の作った小説『荒神』と共に、こうのさんの作られた「荒神」も別立てで絵物語として刊行されることが、本当に嬉しいです。

―スピード感のある活劇的な場面も魅力ですが、執筆で苦労されたことなどありますか?

宮部 元々アクションシーンの描写が得意ではないので、想像で作り上げた怪物を動かす場面は難しかったです。関係しそうな映画や小説をずいぶん見返して参考にしました。キングコングはこうやってビルを登るんだなとか(笑)。
 唯一執筆でつらかったのは、ブラックな……人間の残酷な面が表出する場面。平時には誰にでも優しかったり急場で助けあったりできる人も、やはりひとたび家族が死に追いやられたり相争う根が相手側にあるとわかったりすると、相手を憎み対立することを止められないんですね。そんな、人間の「敵を憎まずにはいられない」という感情を描いたシーンが二箇所ありますが、そこは書いていてつらかったです。

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