「今でこそ『都心部でございます』と澄ましている渋谷や池袋も、当時は雑木林や畑の目立つ郡部であり、だからこそ線路が敷けたのである。(中略)電車で何気なく通り過ぎてしまえば立体感など意識する暇もないが、縦断図面と地形図で細かく観察してみると意外にアップダウンがあり、なかなか絶妙なルート選びであることもわかってくる」(本書より)


 
 また、北海道から沖縄までの『鉄道カーブ名場面50選』を紹介した章などは、「線路やたら敷き回し地帯(武蔵野線・常磐線・流鉄 新松戸駅付近)」「中央構造線をめぐる大迂回(土讃線 箸蔵~佃)」など、ユニークなカーブの数々が登場し、読み応えたっぷりだ。

 今尾氏は本書の中で、「何が魅力かといえば、伊達や酔狂でカーブしている区間は存在せず、すべてのカーブになんらかの理由が背景にあることだ」と述べている。一直線で勾配のない理想的なルートがとれない「地形の見本市」、日本だからこそ、すべてのカーブに“理由”があり、当然、人々の創意工夫が存在する。

「きっと各地方の、何の変哲もない路線と見えても、仔細に地図を見ながらたどっていけば、隠された…… 派手か地味かの違いはあっても、魅力が発見できるのではないだろうか」(本書より)

 本書を読めば、いつも通勤で何気なく乗っている鉄道にも、隠れた魅力があることに気づくはず。明日からは、憂鬱な電車通勤が少し楽しく感じられるようになるかもしれない。