世界約200カ国のなかで、面積が約60番目という広大な面積を持ち、しかも列島とそれに連なる島々が南北に広く散らばっている「広大な国」、日本。亜寒帯気候の北海道から、年間平均気温が20度を超す亜熱帯気候の沖縄まで、多様な気候を抱えている。

 また日本列島は、北から南まで山あり谷あり、海や川もあれば広い野原もあり、それに伴い地形もバラエティに富んでいる。そのため、日本の鉄道は、そんな “地形の見本市”のような土地の上に敷かれているのだ。実に様々な地形・地質の上に重い列車を走らせるため、明治以来、今日に至るまで土木技術者は知恵を絞り、予算内で、その時代で考えうる最高の“線形”を苦労して設計してきた。

 この世界的に見てもとてもユニークな地形を走る鉄道について1冊にまとめた書籍が『鉄道でゆく凸凹地形の旅』(朝日新書)。著者は地図研究家の今尾恵介氏だ。
 
 日本地図学会「地図と地名」専門部会主査を務め、地名や鉄道にも造詣が深い今尾氏は、「これほど興味深い世界を専門家だけに任せておくのはもったいない。その断片だけでも一般に紹介する役割ぐらいは引き受けてもいいではないか」と本書のなかで執筆理由について述べているが、たしかに本書には我々、一般人にとっても興味深い記述が並ぶ。

 例えば、JR山手線についての記述。現在のように環状運転を始めたのは大正14年のことだが、建設時の最大の目的は上野と新橋を結ぶことだった。もちろん両ターミナルを最短距離で結べればベストだったが、両駅の間には江戸時代以来の密集した市街地があったため、土地買収の手間や金額を考えて東京市街の西のはずれにある渋谷や新宿を経由するルートで建設されることとなったという。

次のページ