東京近郊のイオン。このゴールデンウィークは駐車場に向かう車の列が絶えない
東京近郊のイオン。このゴールデンウィークは駐車場に向かう車の列が絶えない
さまざまなプロモーションを展開して、マイルドヤンキー層を取り込んでいく
さまざまなプロモーションを展開して、マイルドヤンキー層を取り込んでいく
イオンの中でも特に、フードコートは通常の週末を上回る人出となっている
イオンの中でも特に、フードコートは通常の週末を上回る人出となっている
食事時は行列になる店ばかり。旺盛な消費意欲が地元経済を支える
食事時は行列になる店ばかり。旺盛な消費意欲が地元経済を支える

 ゴールデンウィークを迎えた日本各地の郊外型モールは、いつもより多くの人々で賑わいを見せている。特にフードコートやイベントスペースは、ごった返すような混雑だ。

 国内外へのレジャーには目もくれず、普段の休日と同じようにモールに出かけていく。地方都市では当たり前のこの光景。だが、そんななか注目を集めているのが、最近話題の「マイルドヤンキー」と呼ばれる人々だ。

 マイルドヤンキーとは博報堂生活総合研究所の原田曜平氏が著書『ヤンキー経済』のなかで提唱したもので、地方都市に住み、そこで完結する生活を送る保守的な若者を指す言葉だ。従来のヤンキーよりも角が取れた、温和な層でもある。

 生まれ育った郊外の街を出ずに暮らす彼らは、とにかく地元密着で遠出を嫌う。上昇志向、学歴、収入はいずれも低い。しかし結婚率は高く子供も産む。電話はガラケー…… そんなキーワードでくくられることの多いマイルドヤンキーだが、彼らが好んで向かうのがイオンモールなどの大型ショッピングモール。

「テレビでは毎年、空港の様子を映して、出国者が何人だと伝えたり、子供に行き先をたずねていたりしますが、私にとっては別世界。一家で海外旅行なんていったいいくらかかるのか。それに、予約して空港行って別の国に…… 想像しただけで面倒臭い」

 と語るのは首都近郊のベッドタウンに住む30代後半の専業主婦。サラリーマンの夫は地元の医療関係の会社に勤めているが、この10年ほとんど給料は上がっていない。それでもふたりの小学生をしっかりと育てており、生活に特に不満はない。典型的なマイルドヤンキーといわれる層だ。

「夫も私も実家が近所。生活面でも援助してもらえるので不自由はない。週末はお互いの実家に行ってから、イオンでお買い物」(前出・主婦)

 ゴールデンウィークもこの生活にあまり変化はない。普段は休みが合わず、会う機会がない友達と、お互い家族連れで食事に行くのが大きなイベントだ。それもやはり舞台はイオンなどの郊外型モール。ほかの場所に行く予定はない。

 前出主婦の夫も言う。

「子供を遊ばせておくスペースがあるから安心。普段は家族だと高くつくので入らないフードコートで、それぞれ好きなものを注文して。家族と友達と、いつもの場所でいつもより特別感を出して過ごすのが本当に楽しい」

 主婦も続く。

「子供を連れていけばどこに行ってもお金はかかるし疲れる。大きなベビーカーを押していたり、子供が泣けば、周囲からの視線も気になります。結局イオンがいちばん楽なんです。子供も慣れているし」

 これを見越して、モール側もゴールデンウィークに合わせてさまざまなイベントを催している。有名人や特撮ヒーローを招いたショー、母の日や子供の日に合わせたプレゼント作り、そしてギャンブル好きといわれるマイルドヤンキー層に合わせたかのようなルーレット大会……。週末だけやってくるマイルドヤンキーたちを連日とりこむことによって、通常より多くの集客を見込む。

「低成長時代の無気力な人々」などと揶揄されがちなマイルドヤンキー層だが、地域に密着して仕事を持ち、子供を産み育て、消費行動をしているのだ。同じように現代日本でキーワード化されたニートや引きこもりといった人々よりも、はるかに日本社会に貢献している存在である。

 モールの中を改めて見てみると、少子化の世とは思えないほど子供たちの姿が目立つ。20代から30代の若い親たちが、子供と一緒に楽しそうに過ごす姿は、地域に閉じこもっていると言われるかもしれないが、グローバル化と情報化が進む以前の日本の姿であるようにも思う。

 子供を残さない人々が増えるばかりの日本。ならばこれからの社会の主役は、彼らマイルドヤンキーとその子供たちなのかもしれない…… 賑わうモールの中で、そんなことを考えた。

(文・室橋裕和)