「ガチ中華」「マジ中華」がトレンドに
ローカル色強い店が人気

 かつて、20年くらい前までは、「本格的な中華料理を食べよう」「中国的な雰囲気を味わい、疑似中国を体験したい」という動機で横浜中華街を訪れる人が多かったと思う。「中華料理といえば横浜中華街」と考えるのは当たり前だった。

 だが、日本人が出張や旅行で実際に中国に行く機会が増え、現地で食べる中華料理が日本の中華街の料理とはかなり異なると知ったこと、食の多様化で日本人の食の嗜好(しこう)が変化してきたこと、新華僑の存在感が増してきて、彼らが各地に中華料理店を出店するようになり、そちらが魅力的なこと……など複数の理由から、「本格的な中華」の意味合いが変わってきた。

 筆者が日本の中華が大きく変わるきっかけになったと考えるのは、「爆買い」ブームが来た2015年に、東京・池袋にオープンした『海底撈火鍋』(ハイディ―ラオフォグオ)だ。

 中国・四川省発祥の辛い火鍋料理で、中国では非常に有名だったが、同店が東京に出店したことで、若者の間にそれ以前から広がりつつあった「激辛ブーム」に火をつけた。同時に、「横浜以外のエリア」にも中国発の中華料理チェーンが次々と上陸し始めた。

 2017年に東京・高田馬場にオープンしたのは、『沙県小吃』(シャーシエンシャオチー)だ。福建省発の中華料理チェーンで、ワンタンや麺料理などが有名。筆者は以前『在日中国人が集う「本格」中華料理店が早稲田界隈に集結する理由』で紹介したことがあるが、同チェーンは中国各地で6万店以上を展開している。これが高田馬場の日本語学校や専門学校、早稲田大学に通う中国人の若者の間で人気となり、以後、「マーラータン」と呼ばれる辛いスープを売りにした料理を出す中国発の料理チェーンや、他の火鍋チェーンなどもできた。

 このようにして、「横浜以外のエリア」に中華料理の集積地がだんだんとできていき、ここ数年は、トレンドに敏感な若者を中心に、中華料理やエスニック料理好きな人、中国駐在経験がある人などの間で、これらの集積地にある本格的な中華は「ガチ中華」や「マジ中華」などの名称で呼ばれるようになった。

 ガチ中華やマジ中華とは、「日本人向けにアレンジされていない中華料理」のことを指す。筆者も数十軒に足を運んだことがあるが、いずれも中国から食材や調味料を調達し、中国とほぼ同じ味付けをしているのが特徴だ。「ここは中国か?」と思わず叫んでしまいたくなるようなローカル色の漂う店ばかりで、店員もほとんどが中国人。メニューやにおい、雰囲気も中国にいるのと変わらない。

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「ガチ中華」台頭で、横浜中華街の立ち位置に変化