●カフェインはエネルギーにならない

 一方、多くの人が誤解しているようだが、カフェインがエネルギーになることはない。目覚めているあいだじゅう、脳細胞は活発に動いている。その結果、「アデノシン」と呼ばれる副産物が生まれる。アデノシンを単なる老廃物だと思ってはいけない。脳は絶えずアデノシンの増減に目を光らせている。というのは、脳と脊髄にあるアデノシンとその受容体の結合が一定レベルに達すると、とたんに身体が眠気を催すのだ(眠気とまでいかなくても、リラックスした気分になる)。そこへカフェインがやってくるとどうなるか。

 カフェインには、アデノシンの受容体と結合できるという特異な性質がある。これは、カフェインとアデノシンの構造がよく似ているからだ。普通なら、受容体の周りは本物のアデノシンでいっぱいなので、身体は休息モードに移行する。しかし、そこへカフェインがやってくると、いつまでたっても帰らない親戚のように居座る。カフェインはアデノシンではないので、疲れを感じさせる作用は起きない。その結果、脳と身体の細胞は活動を続け、本当は眠いのにそうと気づかない。

 脳や身体が目覚めている状態で活動を続ければ、アデノシンはどんどん生成される。だが、カフェインが居座っている限り、アデノシンは正常に代謝できない。そうすると、体内の働きも変わらざるをえなくなり、神経系内でストレスホルモンが増大する。脳や臓器は休息や回復の指示を正しくもらえず、働き過ぎてしまう。

 カフェインの影響力は長く続くので、完全になくなるのに数日かかることもある。人体でのカフェインの半減期は5~8時間だと言われている(個人の体質による)。「半減期」とは基本的に、一定時間(例:8時間)が過ぎた後でもまだその半分の量が体内で活動しているという意味だ。

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