実際、今年に入ってからの日本経済はとても順調だとは言えない。成長が鈍化し、賃金の伸びは期待外れで、かつて安倍政権が誇った株価は低迷し、アベノミクスが目指したはずの物価上昇(マイルドなインフレ)の達成が遠のいているように見える。

 こうした状況を見ると、「アベノミクスは失敗した」と訴えることが野党側にとって効果的に見えるかもしれないが、筆者はそうではないと考える。

 野党の側に立ったとして、なにはともあれ政権側を批判したいとする欲求を抑えて、日本経済に起こっている状況を考えてみよう。

 アベノミクスの「第一の矢」である金融緩和は、結果から見てそれだけではデフレ脱却に対して不十分だった。しかし、主に円安と資産価格の上昇を通じて富裕層の経済状況を改善しただけでなく、失業率の下落やアルバイト・派遣社員などの時給改善を通じて、雇用市場にあって限界的だった貧困層の経済状況を改善した。これらだけで満足とはいえないが、無視できない成果である。有効求人倍率に端的に表れる雇用情勢の改善は、デフレ脱却のためには是非とも必要な条件だ。

 一方、平均値としての実質賃金に表れる、いわゆる正社員勤労者の経済状況は改善していないのは、「第三の矢」のはずだった成長戦略が機能していないからだと言えるが、そもそも第三の矢は実現が難しい。官僚勢力その他の規制緩和に反対する力の強さもあるし、もともと生産性改善を通じた成長の原動力であるところのイノベーションは政策で計画的に起こせるような性質のものではない。

 加えて言うなら、筆者の知る限り、第三の矢に関して野党勢力が有効な代替案を示したことがない。

 リアリスティックに考えるなら、与野党両方に対して「成長戦略」に期待することは適切ではない。できれば規制が緩い方が良いとしても、適切なマクロ経済環境さえ提供されるなら、成長は、民間の努力と幸運によってもたらされるものなのだと考えておくことが現実的だ。

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