●益子会長の“懐刀”商事出身白地常務が次期社長の最右翼

 もしも不祥事が発覚しなかったならば──。6月の株主総会後も、益子会長-相川社長体制が維持されるはずだった。

 同時にポスト現体制への布石も打たれていた。4月1日付で三菱商事から白地浩三氏を常務執行役員として迎え入れたのだ。

 白地常務は、一貫して自動車事業に携わり、機械グループCEOにまで上り詰めた人物。韓国やインドネシアの赴任など、益子会長を追うように職歴を重ねており、益子会長の“懐刀”として知られている。「益子会長がいずれ勇退しても、相川社長をしっかりサポートできる」(三菱商事関係者)として、総会後に海外営業担当副社長へ昇格するとみられていた。

 だが、目算は狂った。益子会長、相川社長の引責辞任が避けられない中、白地常務が次期社長候補として有力視されている。事が事だけに、自浄作用が働かない生え抜きからの昇格は考えにくい。

 過去2回の経営危機では、何としてもスリーダイヤを守るためと、鉄の結束で緊急支援に動いた三菱3社。だが、今回は彼らの支援姿勢に大きな温度差がある。

 それを表面化させたのが、13年の優先株処理だった。積極的な姿勢を示したのが三菱商事である。東南アジアで自動車販売事業を手掛けており、ビジネスのうまみと支援を天秤にかけた結果の判断だ。

 だが、残り2社の姿勢はどうも煮え切らない。三菱銀は「自分でリスクを取らない割には、処理後の議決権比率について、3社で34%付近を維持することにこだわった」(三菱商事関係者)。

 一方の三菱重工が一番ドライだ。「三菱自との取引額はせいぜい数百億円。なぜ、ウチが三菱自を持分法連結会社にしなければならないのか」(三菱重工幹部)とつれない。できるだけ速やかに足抜けしたいのだ。3社から三菱自への転籍・出向者数から見ても、温度差は歴然としている。

 そもそも、今回の危機は三菱自の自爆が原因。04年のように、ダイムラー・クライスラー(当時)に支援を打ち切られたからグループで支えるべき、といった大義名分がない。「向こう1年で三菱重工が足抜けする合意がなされつつあった」(三菱商事関係者)ことを踏まえれば、基本的には、三菱商事を筆頭に、三菱銀がサブで支えるという救済態勢になりそうだ。

 幾度も社会的悪事を働いた企業を救済することに異論はあろう。三菱グループだからという理由以外に救済する根拠があるとすれば、それは財務の健全性である。

 確かに、16年3月期のネットキャッシュ(現預金から有利子負債を差し引いた手元資金)は4200億円。自己資本比率は48%と高く、すぐにつぶれるわけではない。

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