たとえば、「日本経済新聞」(2014年4月12日)は、《「部下は部品ではない」「部下の人生を預かる」――。これまでの失敗を自分に言い聞かせる発言が相次いだ》なんて調子で、柳井会長の“改悛”を強く印象づける報道をしている。

 実は渡辺氏もブラック企業疑惑が出てから、ことあるごとに「社員は家族だ」というようなメッセージを訴えているのだが、メディアではだいたいスルーされている。汚名を着せられた者は、柳井氏のように、とにもかくにも“改悛”の姿勢を見せぬ限り、その主張すら取り上げてもらえない、というのは日本のメディアの特徴のひとつだ。

 さて、こうして奇しくも同時期に「ブラック企業」イメージを打ち消す「対策」を公表した2社だが、その後のトップの発言はとても同じ問題に取り組んでいるとは思えぬほどかけ離れたものとなっている。

「1店舗あたり平均社員2人」を打ち出した3ヵ月後、ワタミの桑原前社長は、「東洋経済」のインタビューで「ブラックだなんて全然思っていない」「労使関係は存在しない」という発言をした。この背景には、14年7月の株主総会で、創業者である渡辺氏が改めて「ブラック企業との風評が広まり、居酒屋の客足だけでなく介護や食事宅配サービスの売上にも影響した」と、「被害者」アピールをしたことがある。

 根拠のない噂のために苦しんでます、というわけだ。外部の有識者委員会からも指摘があったという事実は、もはやどこかへ飛んでいき、とにかく「口が裂けてもブラックを認めない」の境地に達しているのだ。

 そんなワタミと対照的に“改悛”路線を突き進むのがユニクロだ。14年の年末、学生向けの講演会を終えた後の取材で、柳井会長は「疑惑」を暗に認めるような思い切った発言をしている。

「昔の我々の会社には、ブラック企業のような部分もあったと思う。それはなくなってきた」
「世界中の社員には、何人かブラック企業のようなことをやっている人はいるかも知れないが、会社としては容認していない」(朝日新聞2014年12月20日)

●「ブラック企業」批判に対してはいち早く反省した方が有利

 断っておくが、ユニクロの対応が良くて、ワタミがダメだという話ではない。異物混入でマクドナルドのカサノバ社長がなかなか謝罪会見をしなかったことからもわかるように、世界のグローバル企業のなかでは、「トップが非を認める」ことを極力避けるのが鉄則だ。

 少しでも口を滑らせると、株価がガクンと下がるので、事実として確定していない「疑惑」に関しては、徹底的に批判をするのもトップの役目なのだ。そういう意味では、ワタミの対応が「スタンダード」であり、柳井会長の方が「異常」ともいえる。

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