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幸多(写真、推定13歳、雄)が乗った体重計が7.2キロを示した。うちへ来て間もない8年前、同居猫との争いに敗れ、受診した獣医さんの診察台でのことだ。
「わぁー、大きいね! 6キロぐらいに減量しようね」と言われた。ついでにと注射されたワクチンのせいで食欲をなくし、じっと寝ている幸多は、まるで太りすぎを指摘されてふてくされているように見えた。
かすり傷で受診した外科で、やはり「肥満、減量」と言われ、気を悪くした経験のある私は、大いに彼に同情した。そして彼の体重が私のちょうど10分の1である偶然に気付き、おかしかった。その夜、私たちは減量を固く誓い合った。
幸多は路上で保護された。 彼はいつものコンビニの前で、いつも猫缶を買ってくれる人を待っていたらしい。しかしその人は来ず、仕方なく物乞いをした相手が悪かった。特別に鼻にかかった声で「ナァーン」とおねだりし、食べているパンを少しもらえると思っていたのに、いきなり顔を蹴られた。
そんな話を聞いていた私は、彼にひもじい思いは決してさせないと決めていた。しかしこれからは心を鬼にして、餌を置きっぱなしにする置き餌をやめなければならない。1日分を4回に分けて与えることにした。
小腹の空いた幸多がお茶碗をのぞいている。「ないよ」と私のほうを振り向くが、私は目を合わせないようにして知らんふりをする。やがて幸多は時間がくればちゃんともらえることを覚え、さらに時間がきたことを私に知らせるようになった。
2年が過ぎるころ、幸多は6.2キロのクールガイになった。好物の猫缶を奮発して目標達成を祝い、幸多の健康と長寿を祈った。
ただ問題が一つ。私はあの日の体重のまま、自身の置き餌がやめられずにいる。
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