『イン・ア・ドリーム』トロイ・シヴァン(EP Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『イン・ア・ドリーム』トロイ・シヴァン(EP Review)

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『イン・ア・ドリーム』トロイ・シヴァン(EP Review)

『イン・ア・ドリーム』トロイ・シヴァン(EP Review)


 目を見張るような美しいビジュアル、LGBTQに協力的な姿勢、そしてマイルドさを活かしたソングライティング力が日本でも高い人気を誇る、オーストラリアのシンガー・ソングライター=トロイ・シヴァン。2015年にリリースしたデビュー・アルバム『ブルー・ネイバーフッド』は7位、2018年夏に発表した2ndアルバム『ブルーム』は4位と、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”では2作連続でTOP10入りし、2014年の初メジャーEP『TRXYE』と翌2015年の『ワイルド』のEP2作も最高5位をマーク。後者は本国オーストラリアで初のNo.1を獲得し、アーティストとしての才気はもちろん、商業的にも上昇の一途をたどっている。

 EPとしてはその『ワイルド』以来となる約5年ぶりの新作『イン・ア・ドリーム』。メイン・プロデュースは、テイラー・スウィフトやマルーン5等の作品、それから『ブルーム』からのヒット・ナンバー「My My My!」などを手掛けるオスカー・ゲレスが担当した。もちろん、全曲トロイ自身も制作に携わっている。

 4月にリリースされた1stシングル「Take Yourself Home」は、本作のオープニング・ナンバーとして収録。気怠いボーカルを乗せた哀愁系のミディアムで、終盤のノイズ・ミュージックのようなアウトロに切り替わる展開が、トロイらしいセンスに溢れている。歌詞には、昨今の新型コロナウイルス感染症による情勢・想いが綴られていて、冒頭の「どうせなら自分が好きな場所で死のう」というフレーズには何かこう、グっとくるものがあった。全世界が共感できるであろうリリック・ビデオも好評で、英詞の他、いくつかのバージョンが用意されている。なんでも、米PAPER誌からは「コロナ後に発表された楽曲で最もすばらしい」との賞辞が贈られたとか。デラックス・エディションには、アコースティック・バージョンも収録されている。

 自身が監督を務めたミュージック・ビデオも話題を呼んだ2ndシングル「Easy」は、エコーを上手く活用したお得意のエレクトロ・ポップ。世代によっては、英国産の80's風ニューウェイヴっぽく聴こえるかもしれない。サウンドは軽快だが、歌っているのはマイノリティだからこその恋愛観や失望といった重い内容で、同ビデオでは炎に包まれたり水中で微睡むシーンがあったりと、感情の起伏が画かれている。本作のカバー・アートには、その水中でのトロイを捉えた映像が起用された。画面の向こうで二役を演じる赤い髪のポップ・スターは、誰をイメージしたものだろう。

 アコースティックとエレクトロ・ミュージックを融合させたような、独特のサウンド・プロダクションによる「Could Cry Just Thinkin About You」は、インタールードではもったいないクオリティ。ドリーミーなヴァースからダブステップのようなダンス・トラックに移行する「Stud」も、インパクトでいえば本作一の出来栄えだ。後者では、「Easy」路線の男子的乙女心みたいな心情もチラホラ伺える。効果的にエフェクト処理したボーカルでも、複雑な想いをうまく表現した。

 直前に配信された3rdシングル「Rager Teenager!」は、タイトルが示す通り10代の頃の自分を回想し、その頃の情熱を取り戻したいというニュアンスが綴られている。曲のコンセプトに通ずるノスタルジックなメロウ・チューンだが、近未来的な雰囲気もある不思議なテイスト。バスタブに浸かったトロイをワンカットで撮影したMVも、単調な作りながら目が離せなくなる中毒性がある。この曲もそうだが、トロイ・シヴァンが生み出す旋律は本当にすばらしい。最後のスピード感あるファンク・ポップ「In a Dream」も、おセンチな歌詞には直結しない爽快なメロディがリスナーを惹き寄せる。いずれの曲もハッピーとは言い難い内容で、本人が公言していた通り“感情が激しく変化していた”様が伺える。どのアーティストも、そういう時期の方がいい曲ができるものなんだけどね。

 フル・アルバムとして発表したなかったことについては、そもそもアルバムを完成させる予定ではなかったから、だそうだ。収録された曲のほとんどはロックダウン前に完成させていたそうで、これに続くストーリーもまだ模索中とのこと。つまり、本作を軸とした3作目となるスタジオ・アルバムも間もなく……ということかもしれない。とはいえ、このタイミングで6つの新曲を世に送り出したのは、非常に有意義な取り組みであったと思う。今聴くべき内容が、ここには詰まっているから。

Text: 本家 一成


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