『R.Y.C.』Mura Masa(Album Review) 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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『R.Y.C.』Mura Masa(Album Review)

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『R.Y.C.』Mura Masa(Album Review)

『R.Y.C.』Mura Masa(Album Review)


 英ガーンジー島出身。アリアナ・グランデの「ビー・オールライト」(2016年)や、ザラ・ラーソンとBTSのコラボ・ソング「ブラン・ニュー・デイ」(2019年)を手掛ける等、ソングライター/プロデューサーとしても活躍する、Mura Masa(ムラ・マサ)ことアレックス・クロッサン。ムラ・マサ名義では、2014年にミックステープ『サウンドトラック・トゥ・ア・デス』、2015年にEP盤『サムデイ・サムウェア』を発表し、2017年にリリースしたデビュー・アルバム『Mura Masa』が、UKアルバム・チャート19位のスマッシュ・ヒットを記録。ムラ・マサとしての知名度も高まりつつある。

 そのデビュー作がヒップホップ~ファンク、エレクトロニックだったのに対し、約2年半ぶりとなる2作目『R.Y.C.』では一転、パンク・ロックにインスパイアされたアルバムに仕上がった。幼少期には米国のインディー・ロックを愛聴していたそうで、それらの影響も色濃く出たかと思われる。先行シングル「I Don't Think I Can Do This Again」には、米NYのニューウェイヴ・バンド=テレヴィジョンの「880 or So」(1992年)がサンプリングされているし。

 その「I Don't Think I Can Do This Again」は、昨年夏に新作『イミュニティ』を発表した米マサチューセッツ州出身の女性シンガー・ソングライター=クライロとのコラボレーションで、1/fゆらぎを感じさせる彼女の心地よいボーカルが実に良くハマった傑作。前半をフォーク・ロック、後半がニューレイヴというユニークな構成は、ムラ・マサのセンスならでは。なお、同曲はクライロが全編ボーカルを担当している。

 続いて発表した「No Hope Generation」は、昨今日本のバンド・シーンでも人気の“踊れる”ダンス・ロック。悲観的に世界情勢を扱き下ろした歌詞が、軽快なサウンドと不一致なようで不思議と違和感ない。対比効果だろうか?ミュージック・ビデオでは、少女が酒をかっ食らい、突如踊り出すシーンがあるが、これらの不平不満をfダンスと“全て冗談”というメッセージにかけ、「No Hope」を感じさせない作りとしている、そんな印象。

 ダンスといえば、英ロンドンの女性エレポップ・シンガー=ジョージアをフィーチャーした「Live Like We're Dancing」という曲がある。ロック色を薄めたニュー・ディスコ調のダンス・ポップで、ジョージアのハスキーな声質と相性抜群の意欲作。UKはじめ、ヨーロッパ方面のDJ/クラブ・シーンで人気を博しそうな洒落たトラックには脱帽した。女性シンガーによる楽曲では、UKのオルタナ・バンド=ウルフ・アリスのエリー・ロウゼルがボーカルを務める「Teenage Headache Dreams」や、英ロンドンを拠点とする女性シンガーソングライター、ティルザがしっとり歌うアコースティック・メロウ「Today」 も完成度高い。

 英ノーサンプトン出身の人気ラッパー、スロータイをフィーチャーした皮肉たっぷりのディス・ソング「Deal Wiv It」もいい曲。かつてつるんでいた“奴ら”の気にくわない態度に、怒りを抑えガマンを繰り返すという、何やらリアリティたっぷりの歌詞を、グランジとトラップを掛け合わせたようなミクスチャー・サウンドに乗せて、スロータイが吐き出す。サウンド・クオリティもさることながら、この人のラップはトラックの乗せ方とか絶妙な音程の変化とか、本当にセンスがあると思う。

 ギター演奏に合わせて意味深なメッセージを伝える、弾き語りのオープニング曲「Raw Youth Collage」、「Deal Wiv It」に近いニュアンスのスピード感溢れるオルタナ・ロック「vicarious living anthem」、心境を若干狂気じみた表現で歌うダブワイズ「In My Mind」、ボーカルなしのアーバンなインストゥルメンタル「(nocturne for strings and a conversation)」と、本作も捨て曲なし。あらためてアーティストとしての凄みを見せつけた。

 本作のリリースにを受け、2020年にワールド・ツアーを行うことも発表したムラ・マサ。昨年秋に東京・大阪での来日公演が開催されたばかりだが、今年は新作を引っ提げての再来も期待できるかもしれない。


Text: 本家 一成


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