鈴木大介×酒井健治、初の音楽イベント・レポート到着 優しいギターの音色に包まれて、コンテンポラリーを語り合った夜
鈴木大介×酒井健治、初の音楽イベント・レポート到着 優しいギターの音色に包まれて、コンテンポラリーを語り合った夜

 2019年6月29日に京都コンサートホールで開催されるベルギー王立リエージュ・フィルの来日公演に先駆け、ソリストを務める日本を代表するギタリストの鈴木大介が6月20日に京都岡崎 蔦屋書店にてスペシャルイベントを実施した。
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 【『鈴木大介トークセッション&プレミアムライブ』~新しい音楽、クリエイティブ最前線から】と題したイベントは、作曲家の酒井健治とのトークセッションでスタート。2017年に東京文化会館で開催された「全音現代音楽シリーズ」で初めてタッグを組んだ2人だが、酒井にとって、ギター作品は初の試みだったため、作曲過程は鈴木との共同制作に近い経験だったそう。鈴木も「これは流行らせたい」と語るように新しい響きと親しみやすいリズムが共存するグルーヴィーなナンバーに仕上がっている。

 話はリエージュ・フィル公演で鈴木が演奏する中国人作曲家のタン・ドゥンに移る。「現代音楽の”中心”にいる作曲家ではない」とする共通の認識を元に、以前に取材を受けた際、現代音楽について根本的な質問を受けたエピソードを話す鈴木。「そもそも”新しい音楽の響きを発見していくこと”は現代音楽にとって必要なことなのか」という鈴木の問いに、酒井は「歴史的に言うと、モーツァルトやベートーヴェンは当時では革新的な響きを求めていた作曲家。一方でハイドンの後を追うような懐古主義的な作曲家もいた」としてタン・ドゥンはどちらかと言うと後者であり「ハリウッド映画のような、アメリカのエンターテイメント的な要素も感じられる」と解説。一方で「欧州ではブーレーズやシュトックハウゼンが代表するように、今まで聴いたことのない新しい響きを追求する文化もある。どちらも同時に存在するのが現代音楽」とした。

 鈴木は経験から「手法は新しいが、サウンドしない(響かない)、企画倒れに終わる作品」も現代音楽ではありがちだという。それでも新しい響きを求めることについて酒井は「合理的でない、物理的な難しさや、人間の肉体に取り込めない複雑な楽曲があるが、それらとハリウッド的な音楽も含め、再演を繰り返して生き残るかどうかが大事なこと」であり、また「同時代の聴衆との感覚が共有されるかどうか、あるいはそれは50年後の聴衆がジャッジするのではないか」と語った。

 リストの超絶技巧練習曲のように、当時は作曲家(リスト)本人にしか弾けなかったような難曲を今や様々なピアニストが目指し弾いているような例から”作品が演奏家を育てる”ということもある。そこから後半のライブでは、サプライズで、前半に語られた酒井の「エーテル幻想 ギターソロのための」を鈴木が演奏。難曲で、鈴木自身もまだまだ消化に時間がかると言う作品だが、その迫真のパフォーマンスに、集まったオーディエンスも圧倒されていた。

 そのあとは、タン・ドゥンのことを高く評価していた日本人作曲家の武満徹による名編曲による「イエスタディ」「オーバー・ザ・レインボー」、先月亡くなったドリス・デイの歌った「シークレット・ラヴ」などを惜しみなく演奏。夏の訪れを感じさせる京都岡崎の夜、文字通り”プレミアム”なライブが繰り広げられた。

◎ツアー情報【ベルギー王立リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団 2019年 来日ツアー】
2019年6月29日(土)京都・京都コンサートホール ※プログラムC
2019年6月30日(日)東京・すみだトリフォニーホール大ホール ※プログラムA
2019年7月1日(月)東京・サントリーホール ※プログラムB

出演:クリスティアン・アルミンク(指揮)
小林愛実(ピアノ)※7/1のみ
鈴木大介(ギター)※6/29、6/30のみ
ティエリー・エスケシュ(オルガン)※6/30のみ

<プログラムA>
ルクー「弦楽のためのアダージョ」
タン・ドゥン「ギター協奏曲「Yi2」」ギター:鈴木大介
サン=サーンス「交響曲第3番 ハ短調 op.78「オルガン付き」」オルガン:ティエリー・エスケシュ

<プログラムB>
ルクー「弦楽のためのアダージョ」
モーツァルト「ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466」ピアノ:小林愛実
ブラームス「交響曲第1番 ハ短調 op.68」

<プログラムC>
ルク―「弦楽のためのアダージョ」
タン・ドゥン「ギター協奏曲「Yi2」」ギター:鈴木大介
ブラームス「交響曲第1番 ハ短調 op.68」