『クリスマス・イズ・ヒア!』ペンタトニックス(Album Review)
『クリスマス・イズ・ヒア!』ペンタトニックス(Album Review)

 毎年11月になると、クリスマス・アルバムが全米チャートを上昇する。その中でも、マライア・キャリーの『メリー・クリスマス』(1994年)と、マイケル・ブーブレの『クリスマス』(2011年)、そしてペンタトニックスの『ザッツ・クリスマス・トゥ・ミー』(2014年 / 最高2位)、『ペンタトニックス・クリスマス』(2016年 / 首位獲得)は、ホリデー・シーズンのマスト・アイテムとして年末まで売り上げを伸ばす。

 日本でも、ペンタトニックス=クリスマスというイメージが定着しつつあるが、今年はその2大ヒットに続くクリスマス・アルバム第三弾(EP盤『PTXmas』を含むと4作目)『クリスマス・イズ・ヒア!』をリリースしてくれた。スタジオ・アルバムとしては、通算4作目の米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”TOP10入り(EP盤を含めると8作目)を果たした、『PTXプレゼンツ: トップ・ポップ VOL.I』(2018年4月 / 10位)から半年ぶり、通算7枚目となる。

 その『PTXプレゼンツ: トップ・ポップ VOL.I』は、2017年9月に脱退したアヴィに代わり、マット・サリーがバス担当としてメンバー入りした、第一弾アルバム。つまり、クリスマス・アルバムとしては、本作『クリスマス・イズ・ヒア!』がメンバー編成後初のアルバムということになる。とはいえ、ペンタトニックスらしさを維持した美しいコーラス・ワークは健在で、むしろ、よりパワーが増したといってもいいくらいの出来栄え。

 本作からは、暖炉を囲んで歌う「セーター・ウェザー」のミュージック・ビデオが、アルバム・リリースの10月26日に公開された。この曲は、米カリフォルニアのロック・バンド=ザ・ネイバーフッドが2012年にリリ-スした自身最大のヒット曲で、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”では14位、オルタナティブ・チャートではNo.1を獲得している。原曲の世界観を崩さないよう、且つアカペラ・グループならではのハーモニーを活かしたすばらしい仕上がりで、新メンバーのマットの低音もしっかり際立っている。

 9月にリリースされた先行シングルの「メイキング・クリスマス」は、ティム・バートンによるアニメーション映画『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』に起用された定番曲で、こちらも原作(原曲)を意識した、スリリングな展開を見事に再現している。同ミュージック・ビデオは、5人揃って横に並び、クリスマスのシーンとハロウィンのシーンが交差する、季節感たっぷりの内容。カースティのパンダメイクもなかなか凄い……。

 本作には、2人のビッグ・ゲストが参加している。1人目は、自身も2013年にクリスマス・アルバム『ラップト・イン・レッド』(最高3位)を大ヒットさせている、初代アメリカン・アイドルの女王=ケリー・クラークソン。曲は、音楽プロデューサーのデイヴィッド・フォスターが、故ナタリー・コールをフィーチャーしたクリスマス・ソング「グロウン・アップ・クリスマス・リスト」(1990年)で、女性クリスチャン・シンガーとして長きにわたり活躍している、エイミー・グラントも92年にカバーし、2003年にはケリー・クラークソン自身も、アメリカン・アイドルのクリスマスショーで披露した名曲。彼女の歌声も、15年の時を経てさらに深みが増した。

 もう1人は、今年ゼッド&グレイとコラボした「ザ・ミドル 」(最高5位)が大ヒットを記録したばかりの女性カントリー・シンガー、マレン・モリスとのデュエット。曲は、故ホイットニー・ヒューストンと、クリスマスの女王ことマライア・キャリーがミュージカル映画『プリンス・オブ・エジプト』のためにレコーディングした、「ウェン・ユー・ビリーヴ」。マレン・モリスの彼女たちに対するリスペクトが伝わる、ドラマチックな展開に息をのむ。バックを務めるペンタトニックスのハーモニーも、一点の曇りもない。

 オール・ファルセットで仕上げたクラシック・ナンバー、チャイコフスキーの「花のワルツ」~インタールードではもの足りないイングランドの民謡「グリーンスリーブス」といった古典曲から、カバーの絶えない「サンタクロースがやってくる」や、マイケル・ブーブレの『クリスマス』冒頭を飾る、ペリー・コモ&レビューフォンテーン・シスターズの「イッツ・ビギニング・トゥ・ルック・ア・ロット・ライク・クリスマス」などのクリスマス定番曲、スティービー・ワンダーの初期モータウン・ポップ「私のクリスマス」(1967年)やブレンダ・リーの「ロッキン・アラウンドザ・クリスマス・ツリー」(1958年)など、新旧、そしてジャンルを超えた楽曲が、本作も目白押し。ペンタトニックスが幅広い世代に受けているのは、楽曲のチョイスが絶妙ということも理由として挙げられるだろう、

 今年で結成7年目を迎えたペンタトニックス。数あるアカペラ・グループの中で、ここまで息の長いアーティストはいない。カバーのみならず、オリジナル・ソング(アルバム)もヒットさせ、【グラミー賞】も受賞しているんだから、“アカペラ・グループの頂点に立つ”と謳っても過言ではないだろう。本作も、2018年のみならず、数年後のホリデー・シーズンまで、ロング・ヒットしそうな素晴らしいアルバム。国内盤は11月21日にリリース予定。

Text: 本家 一成