高潮が起きるメカニズム。台風が気圧と風特性に変化をもたらし、高潮が生じる
高潮が起きるメカニズム。台風が気圧と風特性に変化をもたらし、高潮が生じる
この記事の写真をすべて見る

 近畿地方に大きな爪痕を残した台風21号。沿岸部を記録的な高潮が襲い、関西空港は冠水し、連絡橋にタンカーが衝突するなど被害は甚大だった。関西大学社会安全学部特任教授で、災害研究の第一人者である河田惠昭氏はかねてより「高潮」の危険性について警鐘を鳴らしていた。著書『日本水没』(朝日新書)より、内容の一部を紹介する。

*  *  *

 まず、「高潮」について述べる。大きな高潮は台風によってもたらされる。台風は低気圧であるから、台風の中心部付近の「吸い上げ」と暴風による「吹き寄せ」の2つの効果によって海面は上昇する。

 台風の中心気圧が940ヘクトパスカルとすれば、1気圧、すなわち1013ヘクトパスカルとの差の73ヘクトパスカル分「吸い上げ」られて、海面が上昇する。1ヘクトパスカル低下すると、およそ1センチ上昇するから、計算すると70センチは確実に上昇する。一方、「吹き寄せ」は、海面近くの風速の2乗に比例し、かつ海が浅くなれば増幅するから、間違いなく2~3メートルは海面が上昇すると考えてよい。

 一方、「津波」は、ほとんどの場合、地震による海底の上下動に起因して発生する。海底の上下動は、火山の噴火によっても起こる。また、大規模な土砂崩れが起こり、大量に海に突入することによっても津波は発生する。
 
■伊勢湾台風での被害が大きかった理由

 上記からすると、高潮より津波のほうがずっと危険に思えるが、決してそうではない。たとえば、1959年の伊勢湾台風による高潮で、なぜ5098人も死者・行方不明者が出たのであろうか。

 最大の理由は、住民が洪水氾濫と高潮氾濫の違いを知らなかったからだと思われる。

 この台風は、同年9月26日18時頃に潮岬に上陸し、野灘の沿岸に沿うように、北東方向に進行した。当日は土曜日だったが、三重県や愛知県沿岸部では、午前を臨時休校したり、企業も臨時休業したりして、台風に備えていた。

 にもかかわらず、犠牲者が大量に出たのか。その理由は、住民は洪水と高潮の氾濫の違いを知らず、どちらも同じと錯覚していたからである。

次のページ
海面上昇量が最大の時は…