記者は東京で暮らすようになり、本州の台風をいくつか経験していくうちに"沖縄流"の対策では通用しないのではと感じるようになった。台風そのものの進路や強さ、被害の出方、台風の間の社会の動きが明らかに違うのだ。特に暴風域に入っているころに地下鉄が動いていたのには驚いた。沖縄では「台風=自宅待機」が常識だが、出勤・登校できるようになると転倒などの被害が広がるのでは……。そう思っていたが、実際は本州に上陸する台風が風よりも豪雨などの水害で被害が大きくなっている現状がある。本州に上陸した台風には何か違う対策が必要なのか。筆保さんはこう言う。
「風が強くなる前に、備蓄を揃えたり、避難を済ませるなど一般的なことは変わりません。ただ、短時間豪雨が多発するいま、『家の中で風をしのげば安全』とも言えません。大雨によって自分の住む地域にどんな影響が出るのか知り、自分で判断しなければなりません。川が近ければ決壊する危険はあるのか、そうなったときにどこに避難するのか。山が近いなら土砂崩れの危険が高まったときに家から逃げるという判断も必要です。そのとき、山の高さの2倍の距離は離れる必要があります。家の裏山に10メートルの高さの崖があるなら、10メートルの2倍、崖の下端から20メートルは離れましょう」
強風だけではなく、場所によって雨や土砂災害など警戒すべきものが違うのだ。2016年、北海道に接近した台風10号は日高山脈の東側に被害が集中していた。リスクが高いところと低いところなど、より具体的な情報を提供しようと筆保さんらが開発したのが「台風ハザードマップ」だ。過去の台風を参考に日本中に1000個の台風を擬似的に接近させてシミュレーションした。それによると、本州で風が強いのは標高が高い山岳地域と海岸沿い、豪雨のリスクが高いのは太平洋側だった。沖縄は高い山が無いため、吹きさらしで風の影響を受けるという。
「風は周囲の地形によって、強まったり弱まったりします。無料公開している『台風ソラグラム』では、どこに台風があるときに警戒すべきかを地域ごとに明らかにしました。隣の地区でも違うことがあります。台風が来る前に自分の住む地域や職場周辺について調べておくといいと思います」