■長年使い続けた“苗字”との別れは複雑な思い
長年一緒だったのは両親だけではない。“苗字”は50年かたときも離れず、一緒だった。
「『苗字が変わるので変更届をください』って会社に言ったんです。普通この年なら、苗字が変わると言えば、離婚ですよね(笑)。長年使い続けた名前が変わるのは、うれしいような名残惜しいような複雑な気分でした」
親のためには、若いうちに結婚をしておけばお互い苦労も少なかっただろうし、これほど後ろ髪を引かれることもなかったかもしれない。苗字もつき合いが長かった分だけ、思うことが多い。じっくり時間をかけ、自分の気持ちを大切にしてきたが、51歳で結婚して初めて、「もしかしたら、世間一般の結婚適齢期というものも一理ある」と、思ったという。
「心配はつきませんし、いつ本格的に介護が必要になるかわかりません。でもそのときは夫婦2人で考えようと思います。彼も場合によっては親との同居も考えてくれています。その場合、今のマンションは3階でエレベーターもないから、親と同居できるマンションに引っ越すことになると思います。そもそも独身でも親の介護は避けて通れないことですし」
さち子さんから聞いた印象的な言葉がある。
「結婚することで何かを辞めるのは本意じゃない。結婚することで何かを辞めてほしくない」
さち子さんのフェイスブックのプロフィール欄には“日曜作家”とある。彼女は今日もコンビニの駐車場で原稿を書いている。(取材・文/時政美由紀)
時政美由紀(ときまさみゆき)
(株)マッチボックス代表。出版社勤務後、フリー編集者に。暮らし、食、健康などの実用書の企画、編集を多数手がけている