バイロン・シャープ氏らのこれらのマーケティングの法則を過去のリアルなデータを使用して検証していくと、彼らの主張がことごとく裏づけられていることがわかります。私は、これらを認識し理解することが、より良いマーケティングを実践しブランドを育成することを責務とする日本のマーケターに必要ではないかと考えています。

 現在では、STP理論でブランドの立ち位置を決めた後、その限定したターゲットのロイヤルティを極限まで高めるCRM(カスタマー・リレーションシップ・マーケティング)の手法で、高効率なマーケティング施策を展開し、ROI(リターン・オン・インベストメント)を高め、その特定の顧客からLove Mark(ラブ・マーク)を獲得することが、最新のマーケターの手習いのように思われています。しかしその結果、現実にはどのように改善されたでしょうか? 本書の素晴らしさは、これらの最近のマーケティング・バズワードにデータを例示しながら真っ向からチャレンジしている点です。

 私がP&Gに入社した1990年代初頭、ベーシス社のベーシス(現在はニールセン社傘下)やノバクション社のデザイナー(現在イプソス社傘下)など、新製品や既存ブランドのリニューアル品の販売量予測を行うサービスが日本の消費財メーカーにも提供されていました。日本のP&Gは、それらのサービスの精度やコストへの不満、マーケティング施策への示唆不足等の理由から、独自の販売量予測モデルを開発し、その後その独自モデルを基にP&Gブランドの日本市場への発売可否の意思決定やメディア予算やマーケティング施策の最適化に関する社内コンサルテーションを2010年過ぎぐらいまでの20年間近く実施していました。P&Gはその独自モデルの骨格を成す理論を、バイロン・シャープ氏のアレンバーグ・バス研究所の研究成果を参考にし、外部の販売予測サービスよりも精度の高い販売予測モデルを構築し、その予測モデルからブランドの市場導入と育成に活用してきたのです。

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