すぐれた音楽は、サウンドから景色が見え、色があり、物語がある。クレイジーケンバンド(CKB)の最新作『GOING TO A GO-GO』からは、高温度や湿度までも感じた。
「楽曲を濃くするために、最終段階で念を込めています」
とは、リーダーでヴォーカルの横山剣さん。
「曲はね、どんどんできるんですよ。クルマの運転中に鼻歌を歌いながらメロディや歌詞が生まれたり、レコーディングスタジオに入った瞬間興奮で頭の中で音が鳴り始めたり、なんのきっかけもなく自然発生したり。曲が生まれたら、まず1人でスタジオにこもって基本のトラックを作ります。ドラムスを2小節だけ叩いてPro Toolsという機材に流し込んでループして鳴らして、そこ手弾きでギター、ベース、ピアノ等のサンプル音源を重ねていく。本物のギターじゃないと表現出来ないニュアンスがほしいときは、バンドのギタリストの小野瀬雅生を呼んで弾いてもらう。こうして作ったデモ音源を基に、バンド・メンバーの生演奏の音に差し替えていくのがCKBのレコーディングです。ミックスは緻密に緻密に仕上げ、最後に念を込める。まあ、たまに、うまくいかないときもありますけれどね」
完成した音は緻密なプロセスを経たとは感じないほどシンプル。メロディもリフもくっきりとしていて、1度聴いたら、無意識に歌ってしまうほどだ。
「こだわって、こだわって、こだわりぬいた結果、シンプルになる。それが僕の理想です。たとえば、ディズニーランドや、スタジオジブリのアニメって、最先端の技術を駆使した結果、子どもが楽しめるシンプルな娯楽になっていますよね。CKBの音楽もそうあってほしい。毎日音楽を聴いているマニアだけでなく、子どもやお年寄りも楽しんでもらえると最高です。音楽を聴き慣れていない人の心までグッとつかむのが一番難しいんです」
こうしたねらいが見事に成功しているのがアルバムのタイトルチューンの「GOING TO A GO-GO」だろう。シンプルなドラムス。歌うベース。切れ味鋭いギターのカッティング。そこにエレクトリックピアノと管楽器が色づけしていく。横山剣のヴォーカルは韻を踏み、「レッツ・ゴー!」「ウェルウェルウェル!」「うっ!」「イエイ!」とアクセントを加えていく。演奏しているメンバーの顔まで見えるようなR&Bナンバーだ。曲のタイトルは、米モータウン・レーベルの重鎮、スモーキー・ロビンソンのミラクルズの名曲からもらった。
「GOが3つも付くなんて、カッコイイでしょ。あの曲をいつかカヴァーしたいと思っていたけれど、自分の曲のタイトルにしちゃいました。『GOING TO A GO-GO』はミラクルズのオリジナルも好きだけど、ローリング・ストーンズのカヴァーもいかしています」
この曲を初めて聴いて大興奮したのは中学生のときだった。