そうした経験からも明日香さんは、「2人目の子は絶対に公立には預けない」と、私立の小規模保育所に預けた。第一子が卒園するまでの間は、きょうだい2カ所の保育所の送り迎えを余儀なくされた。雇用も収入も安定している公立で必要最小限の保育しかせず、低賃金の私立で手厚い保育を行う。保育者の一人であるのに、保育ハラスメントに遭う矛盾を感じた。
「スズメの涙ほどしか給与は上がらない。もっと評価されていれば、続けたかもしれない。保育所の仕事だけなら続いたかもしれない。何より、母のいない正月を子どもに過ごさせたくない」
と、明日香さんは別の保育所への転職を決めた。
内閣府は、認可保育所での人件費の内訳を示している。保育士など職員の人件費は、「公定価格」と呼ばれる運営費のなかで積算されている。公定価格には、メインとなる基本分単価のほか、必要に応じて冷暖房費や除雪費用などが加算されていく。人件費の細かな内訳については、内閣府の通知「平成29年度における私立保育所の運営に要する費用について」で、施設長、主任保育士、保育士、調理員等について示されている。例えば、保育士の年収は約380万円、「調理員等」は約314万円となっている。栄養士は、人件費の大元となる委託費できちんと考慮されていないため、「調理員等」の「等」で栄養士が採用されるケースもある。
公定価格では、あくまで「栄養士を活用して給食を実施した場合」の加算方式となっているため、十分な人件費をねん出できず、雇用や収入が安定しない一因となっている。栄養士がきちんと配置され、生活に必要なスプーンやフォーク、箸の持ち方などについて子どもも保育士も指導されれば、保育士の業務負担の軽減にもなるはずだが、保育士とチームになって園児にとって大事な食を担う栄養士が評価されていない。内閣府の「幼稚園・保育所等の経営実態調査」では、私立の認可保育所(平均利用定員91人)で「栄養士」として雇用されている栄養士は0.6人。1施設に1人いないことになる。