「栄養士としての仕事だけできる求人などめったにない」
都内の認可保育所で働く加藤明日香さん(仮名、30代)は、あきらめ顔だ。待機児童解消のため保育士の処遇改善は進むが、子どもの食を支える栄養士の処遇については、まるで光は当たっていない。
明日香さんは社会福祉法人の大手に就職した。保育所で子ども向けのメニューを考えることに集中したかったが、併設する介護施設の高齢者向けのメニュー作りも兼務することが条件となっていた。それでも明日香さんは「保育所だけ運営している法人では栄養士だけの仕事で雇ってもらえることは少なく、保育もしなければならないから、まだいい」と、不満はあっても胸の奥にしまい込んでいた。
介護施設での会議に1時間、保育所での会議に30分。毎日、それぞれの会議は立ちっぱなしで参加しなければならない。アレルギー対応はもちろん、乳幼児も高齢者も咀嚼を考えながらのメニューを考えていく。食事の時間には保育所のクラスを回り、子どもたちと触れ合いながら、子どもたちの食べる様子を入念にチェック。スプーンでうまくおかずをすくえるか、スムーズにいくような食器選びも重要だ。お箸の持ち方の指導なども行う。保護者に対しても、機会を見つけては、「子どもが健康で長生きできるように、塩分は控えめに」と指導もしていく。栄養士の仕事は、献立作りだけではない。
しかし、明日香さんの労働条件は決して良くはなかった。初任給は基本給が月19万4000円。資格手当てが1万4000円ついたが、7年働いても基本給は約20万円にしかならなかった。採用試験の面接では、「年収350万円は保障する」と言われていたが、中堅になっても、提示額には全く届かない。
そればかりか、第1子を出産後、職場復帰して育児短時間勤務制度を利用すると基本給が月18万円に落ち込んだ。賞与は夏と冬にそれぞれ25万円が支給されたが、年収は300万円程度にしかならない。時短勤務でも仕事の量が減るわけではなく、給食だよりや、新しいメニューの試作は家でやるしかない。子どもが寝てから深夜に眠い目をこすりながらこなした。研究発表会もあり、その準備にも追われたが、全てが「持ち帰り残業」で無賃状態を余儀なくされた。