さらに今回の登録では、「信徒発見」も大きなテーマとなっている。江戸幕府末期、1858年に開国後、1865年にフランスが大浦天主堂を建てると、まだ禁教の時代だったにもかかわらず、潜伏キリシタンたちが駆け込んで信仰を告白。200年以上もの間、弾圧され続けながらも信仰を受け継いできたことは世界宗教史上の奇跡と称賛され、「信徒発見」と呼ばれている。まだ禁教だった時代にどんな気持ちで教会の門をくぐったのだろうか。禁教がもたらした闇と影を今に伝える、貴重な遺産となっている。
世界遺産登録で注目される長崎・天草地方だが、以前より、その独特の風景が多くの人の心を掴んできた。江戸時代からほぼ変わらないで受け継がれている集落や、密集する民家の中にそびえる教会の尖塔、集落のいたるところに点在する信仰の形跡が、今もこの土地に信仰が生きていることを伝えてくれる。
さらに、島や集落を見守るように建つ教会の姿は、ここに生きる人たちの心は安らかに違いないと思わせる風情がある。教会は木造が多い。キリスト教が解禁になってから信者たちが力を合わせて建てたからだ。歴史が裏付ける風景は、さりげない岩や小島、小川、そしてところどころに見られるマリア像にも、人の営みの記憶が染み付いている。
その美しさや荘厳さは、多くの表現者を魅了している。写真家の池田勉氏もその一人だ。写真集『長崎・天草 潜伏キリシタン祈りの里』では、現在の「かくれキリシタン」の姿を克明に記録している。
例えば、山奥の神社のさらに奥でオラショという祈りをする「かくれキリシタン」の姿。オラショを祈る部屋にはキリシタンの祭壇を挟んで左に仏壇、右に床の間があり、その上に神棚がある。家での行事や、行事に使われる聖具なども細かく記録されている。さらに屋外での祈祷などのほか、教会での色彩豊かな祈りの場面、島の小さな教会のバラ窓に灯が点った写真など、「キリシタンの里」のすべてを切り取っている。
まずは写真で新たな世界遺産を味わってほしい。