日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。乳児湿疹とアトピー性皮膚炎について、自身も1児の母である森田麻里子医師が「医見」します。
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前回お話したように、乳児湿疹は比較的よくある病気です。しかし、湿疹が食物アレルギーの原因になるという説があるのをご存知でしょうか。2008年にイギリスの研究者が提唱した説で(1)、ここ数年有力となってきています。
例えば、16年にイギリスの研究者たちが、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関連についての研究66本をまとめて解析したところ(2)、アトピー性皮膚炎がある子には食物アレルギーも多いことがわかりました。生後3カ月の時点でアトピー性皮膚炎がある子は、健康な子どもに比べて、食物に感作されているリスクが高く、オッズ比にして6.18倍であったのです。
皮膚の状態と食物アレルギーは一見別のことに思えますが、皮膚のバリアが壊れると、そこから食べ物の抗原が侵入して、アレルギーを引き起こす可能性があります。
それでは、皮膚のバリアを壊さないよう、対策をとることはできるのでしょうか? 実は、スキンケアでアトピー性皮膚炎や湿疹を予防できるという研究結果も出てきました。
国立成育医療研究センター(東京都)の研究者が14年に発表した論文では、保湿剤の効果が検討されています(3)。アトピー性皮膚炎の親、またはきょうだいを持つ赤ちゃん118人を59人ずつの2グループに分け、一方のグループでは生後1週間から毎日、乳液タイプの保湿剤を全身に塗りました。32週までにアトピー性皮膚炎や湿疹と診断されたのは、保湿剤を塗ったグループで19人だったのに対し、塗らなかったグループでは28人であり、保湿剤を塗ったほうがアトピー性皮膚炎や湿疹の割合が少なかったのです。
まだ仮説の段階ではありますが、新生児のうちから保湿剤を塗り、湿疹ができてしまった場合も早く治すことで、食物アレルギーを予防できる可能性もあります。たくさんの研究から、赤ちゃんのスキンケアの重要性がわかってきたのです。