高木:小林繁さんとの電撃トレードもありました。
江川:そこで中学時代の話に戻るんですよ。私はトレードをOKするにあたって金銭トレードだと誰にも迷惑がかからないので、「そうしてほしい」とお願いしたんです。
高木:その発想はやっぱりまだまだ子どもの考えですよね。江川という“金の卵”をお金でゆずるわけがない。
江川:それで結局、小林さんとのトレードになってしまった。
高木:世の中を敵に回しましたよね。やっぱりつらかったですか?
江川:そうですね。
高木:入団後の試合で打たれても野手がゴロをとらないとか。そんな嫌がらせもあった。
江川:まあ、それが普通ですよ。そんな時代でした。
高木:いろんな意味で運命というか、そういう星の下に生まれたってことでしょうね。いま大谷翔平選手がメジャーに行って騒がれていますが、大谷選手をどう見てますか?
江川:彼は打者主体の二刀流だとみています。打者と投手のどちらのレベルが高いかと聞かれたら「打者」だと答えます。
高木:江川さんもバッティングがよかったから、時代が時代なら二刀流をやっていたかもしれない。
江川:たぶん無理だと思う。きつい。
高木:江川さん、きついこと嫌いだもんね。
江川:うん。大谷選手はえらいと思う。でもこのままだと壊れてしまうだろうから二刀流はやめたほうがいい。
高木:メジャーから誘いはあったんですか?
江川:ありましたよ。
高木:米国留学時代に誘われたんですよね。
江川:具体的にどこの球団かは言えませんが、誘いがあったのは事実です。
高木:ドジャースですよね。
江川:なんで言っちゃうかな……。
高木:まあ、いいじゃないですか。もっと聞きたいことがあったのに時間がありません。今度はワインでも飲みながら、ゆっくりやりましょう。
江川:考えときます。
高木:あ、いま思ったけど、子どものときに石を投げてたわりに現役時代(9年間)は短かったですね(笑)。
江川:お金にならないアマチュア時代に精いっぱい頑張りましたからね。この対談みたいにお金にならない仕事をまじめにやるタイプなんです。
高木:本当ですか? じゃあまたやりましょう。
江川:考えときます。
※「空白の一日」とは
法政大学4年生だった1977年秋、江川さんはクラウンライターライオンズの1位指名を拒否し、大学卒業後に米国へ野球留学。翌78年11月21日、野球協約の死角の「空白の一日」をついて巨人と契約した。江川さんを指名したライオンズの交渉権は、同年のドラフト2日前の11月20日で消滅。21日時点では協約上、「いずれの球団にも選択されなかった選手」と巨人は判断して、ドラフト外入団という形で契約した。だが認められず、江川さんはドラフトで1位指名した阪神と契約。その後、小林繁さんとのトレードで巨人へ入団した。
(構成・竹内良介)