その証拠に、恋愛を書く有働さんは自虐的だ。だめんずだと自分を笑っている。仕事の話になると一転、ストレートだ。紅白歌合戦の司会に抜擢され、ニューヨーク特派員になり、あさイチを世に出した。どんなに努力し、結果を出したかをグイグイ書いている。

「美人でもない、きれいな声でもない」私、と繰り返し書いている。コンプレックスをもとに頑張る女子。働く女子なら、誰でも心当たりがある話だ。低い声だから可愛い仕草が似合わないと書き、ひとつだけよかったと思ったのは「低い声のほうがニュースが聞きやすい、と言われたことだ」とまとめていた。有働さんのすべての道は、仕事に通じる。

『ウドウロク』の本文冒頭は、「大人になってからの失恋」という文庫のための書き下ろしエッセイが載っている。「大人になってからの失恋は、孤独でいいと思う」と書き、恋をしている最中も孤独かもしれないと続ける。相手と完全に想いをシェアできないことがわかっている、そのくらい自分の“なにか”ができあがっている、と。そして、犬を飼ったと告白する。犬との暮らしは居心地が良すぎる、と。

「寿退社」などという憶測を一時書かれたことがあった。だが犬と暮らしているのだ。私にとってライフよりワークです。だからライフは、人でなく犬と共に。そう宣言している。

 伊東四朗さんとの「プレミアムトーク」が像を結んだ。有働さんはもう、ライフはワークそのもので、バランスなんかさせない。そしてそのことを、隠さないことにしたのだ。「笑いに『芯』が必要」だ、いい話が聞けそうだ、だからそれを、ひたすら追いかける。正面から、グイグイと。仕事で成果をあげる。その意欲を、てらいなく外に出す。あの時、彼女はもう、とっくにその心境に至っていたということだ。

「文庫版はじめに」で有働さんは、このエッセイを書いていた40前後の自分を「結婚」「出産」というオンナとしての「結果」にこだわっていた、と振り返っていた。今の自分の心境については、「こうも変わるものか」と表現している。

「オンナ」の結果から、「仕事」の結果へ。犬と暮らし、10月からは「NEWS ZERO」のキャスターをする。きっと彼女はグイグイと、意欲をてらいなく見せて、成果をあげていこうとするだろう。

 私は地下鉄で、『ウドウロク』の中吊り広告を見るたびに、ちょっと居心地が悪かった。有働さんの、まっすぐな笑顔。隠さない、明るい上昇志向。

 隠してくれとは言わない。だけど、それがまぶし過ぎて、ちょっと居心地が悪くなるのだ。(文/矢部万紀子

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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