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「会社は素人。何ひとつ分かってもらえず、パワハラでうつになった」

 都心に新規開設された認可保育所で働いていた星野美香さん(仮名、40歳)は、パワーハラスメントを受けてうつ状態に陥り、わずか半年で職場を去った。

 もともと幼稚園教諭だった美香さんは、20代前半のうちに結婚し出産。子育てに専念するため専業主婦になった。3人の子育てが落ち着き、保育士として本格的な再就職をすることを決めた。これまで多少は保育士として働く経験があったがブランクがあるため、「まずはフルタイムのパートで働いてみよう」と、2017年4月に新規オープンする、株式会社が運営する認可保育所のパート社員に応募するとすぐに採用が決まった。開園準備のため、同年2月から勤務が始まって間もなくすると、「園長候補が消えてしまった。このままでは開園できないから、園長になってほしい」と懇願され、正社員になって園長職を引き受けることになった。

 運営会社は東北に本社を置く人材派遣会社で、数年前から子会社を作って保育の世界に進出し、関東にも保育所を開設したが素人同然。4月1日にオープンするというのに、約1カ月前の段階でも保育環境は全く整備されていない状態。給食室や乳児の調乳室に入る職員は検便をしなければいけないが、その業者も決まっていない。年間の行事も決まっていなかった。

 保育をしたことがあれば当然分かることでも話が通じない。本社は机やイスを購入しただけで開園準備ができていると思って、「大丈夫、大丈夫」とのん気だった。0~1歳児でよちよち歩きの園児を公園に連れていくまでに乗せるお散歩カートはどうするのか、入園説明会はどうするのか。そうした細かなことが何ひとつ決まっていない。美香さんが役員に相談すると「細かくてうるさい」と煙たがられた。

 設備も整っていなければ、人材も心もとなかった。雇われている保育士12人中、半分は新人。保育が何かも分からない状態で、もちろん保護者対応も満足にできない。美香さんは園長として業者対応をしながら保育室にも入ってピアノを弾き、絵本の読み聞かせやリトミックをこなした。夕方になると、担任の保育士は保護者に子どもの名前を間違って知らせて怒らせてしまうため、園長と主任で手分けしてお迎えにきた保護者に一日の様子を知らせた。

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アレルギーの子どもへの対応もずさん