小柄ながらプロから高い注目を集めているのが矢沢宏太(藤嶺藤沢)だ。春の神奈川県大会2回戦の慶応湘南藤沢戦では6回コールドの参考記録ながらノーヒットノーランを達成。3回戦の日大藤沢戦で惜しくも敗れたが、8回を投げて12奪三振と強豪を相手に一歩も引かないピッチングを見せている。矢沢の良さは、肩の可動域が広く、全身を使ってしなやかに腕を振ることができるところ。無理なく高い位置からリリースできるため、ボールの角度も上背以上のものがある。また、変化球でも腕の振りが緩むことがなく、同じスライダーでも変化に大小をつけられるのも長所だ。少しバランスを崩して制球にばらつきがあるのは課題だが、総合力では間違いなく全国トップレベルのサウスポーである。

 その他の3年生では190cmの大型サウスポー、大阪桐蔭の横川凱、国士館の石井峻太、草薙柊太などの名前が挙がっているが、それ以上に注目を集めているのが横浜高校の及川雅貴(2年)、松本隆之介(1年)の下級生2人だ。及川は中学時代から注目を集めた選手で昨年夏の甲子園でも1年生ながら登板し、秀岳館(本)の強力打線を相手に3回を投げて1安打無失点と好投を見せた。一冬超えたこの春はスピードが大幅にアップし県大会で149キロ、熊本での招待試合と先日の関東大会では早くも150キロをマークしている。体の使い方が少し横回転し、左右にぶれるのは課題だが鋭い腕の振りは間違いなく一級品。大まかにではあるがコーナーに投げ分ける制球力も持ち合わせており、短いイニングであればストレートだけで圧倒するピッチングを見せている。変化球のコントロール、コンビネーションなどの細かい部分がレベルアップすれば、来年はさらに騒がれる存在となるだろう。

 松本も中学3年時に神奈川県内の硬式クラブチームによって行われている「横浜DeNAベイスターズカップ」に戸塚リトルシニアのエースとして出場。横浜南ボーイズを相手に7回を投げて被安打2、11奪三振と圧巻のピッチングを見せた。この時の最速は133キロだったが、高校での公式戦デビューとなった春の神奈川県大会ではいきなり145キロをマークし、多くの観衆を沸かせた。まだまだ細身ながら186cmの長身から繰り出すストレートの勢いは申し分ない。コントロールが不安定なためまだ登板機会は少ないが、その大器ぶりは及川にも引けを取らない存在だ。

 今年の夏の100回記念大会。全国の地方大会、そして甲子園の大舞台で彼らの躍動する姿が見られることを期待したい(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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