一方、日本の国策でやろうとしているのが特化型人工知能で、これは膨大なデータをもとに情報の「違い」を判別し、AとBとを見分けていくというものだ。この特化型人工知能は、一見健康に見える人の病気を見抜いていく手段として期待されている。
そのための学習方法として注目されているのがディープラーニングという技術だ。高校や大学で学習する統計学とは少し違った考え方から生まれた、コンピューターで違いの解析を行う技術である。この技術の進歩により、放射線診断画像などで健康な人と病気の兆候がある人との違いから病気を見つける自動診断の研究も進んでいる。
さらに、ディープラーニングによる診断精度を高めるためのデータ蓄積の基盤も整備されようとしている。病気の診断結果や治療経過といった医療情報は個人情報ではあるが、現在はこれをプライバシーに配慮した形で集約し、医療機関が人々の健康のために活用できるような基盤が現実的に検討されているのだ。
AIを用いた医療の診断技術は、ものすごいスピードで進んでいる。数年後にはAI診断が実用的なものになる可能性が高い。近い将来、医師免許を持たないAIが、医師に代わって診断する時代がくる――。それは、まさにブラック・ジャックのような医師、と言えるのではないだろうか?
中国では、ロボットが医師免許試験に合格したという報道があった。AIは人と違ってものを忘れることがないので、人を超えるという存在になるのではないかと考える人も多い。
しかし、人と人との会話や触診による診断は、医師の視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五つの感覚(五感)を超えた第六感を働かせている場合がある。これを「科学的ではない」という人がいるかもしれないが、まったくの荒唐無稽とは言い切れないだろう。その点で、どんなにAIが発達しようとも、人間の医師を百パーセント置き換えることは決してできない。
私たち医師は、AIにたくさんのことを教えられて、たくさんのことを見つけてもらい、日々の医療行為を支えてもらえるようになるだろう。しかし、私たち人間の医師が最終判断を行うという概念は、まだ先の未来まで残るはずだし、そうでなければいけないと私は考えている。人と人が触れ合って診断するという領域においては、まだまだ機械が人に代われるレベルまではきていない。