ロシアが昨年2月24日にウクライナ侵攻を始めてから、まもなく1年となる。両軍の激戦は今も続く。兵士はもちろん、市民の犠牲も増え続けている。必要なのは即時停戦。あらゆる核兵器と戦争に反対する広島の精神だ。AERA 2023年2月13日号の記事を紹介する。
【写真】「勝利は必然だ」と強調…軍需工場を訪れたプーチン大統領
* * *
停戦の道はあるのか。この戦争が事実上の米ロ代理戦争である以上、米国が動かなければ停戦はない。米国にとってこの戦争は、ウクライナを「人柱」とすることでロシアの弱体化を図ると同時に、西にも東にも武器供給を増やせることで軍産複合体周辺を潤わせ、経済制裁によってロシアがヨーロッパに持つ天然ガス供給のシェアを奪い取れる好機ともなっている。
作家の佐藤優氏が指摘するように、これは「管理された戦争」だ。「ウクライナへの支援は続けるが、その支援によって戦争がロシアに拡大し、ロシアによって米国が交戦国認定をされるということは避けたい」(22年7月23日、朝日新聞デジタル)と佐藤氏は見ている。この戦争を終わらせるには、米国が実力でウクライナからロシアを追い出すか、プーチン氏がのめる条件を提示するかのどちらかだ。だが、前者は現実的にはありえない。
停戦への道筋をつけるには、ロシアがなぜこのような暴挙に出たのか、その内在的論理を探り、戦争勃発を防げなかった理由を冷静に見つめる必要がある。米ソ冷戦終結(1989年)後、東西共通の安全保障空間づくりになぜ世界は失敗したのかを謙虚に顧みる姿勢である。筆者が新著『ウクライナ戦争は問いかける NATO東方拡大・核・広島』(朝日新聞出版)でも触れたように、この問題ではウクライナの中立化の議論は避けられない。
元日に放送されたNHKスペシャル・混迷の世紀「2023巻頭言 世界は平和と秩序を取り戻せるか」は、教訓を引き出す上で示唆に富んでいた。
フランス元外相のユベール・ヴェドリーヌ氏は、米ソ冷戦期に核戦争の寸前まで至ったキューバ危機(62年)時代のケネディ大統領とフルシチョフ首相の関係にヒントを見いだすべきだと述べた。西側諸国の指導者はいつかはロシアと向き合わなければならない、国際社会からロシアを完全に排除することはできないとの主張だ。冷戦時代の関係が最悪の時でも、米国の指導者はソ連に逃げ道を残し、西側の政治家は「価値観の違う国とは話ができない」とは言わなかったと指摘し、それが奏功したとの考えを示した。