
■ゼレンスキー氏の強硬姿勢、バイデン政権の誕生が要因
外務省元欧亜局長の東郷和彦氏は、22年10月に出版した『プーチンVS.バイデン ウクライナ戦争の危機 手遅れになる前に』(K&Kプレス)の中で、ウクライナのゼレンスキー大統領が対ロ強硬姿勢を強めていく大きな要因は、21年1月に米国でバイデン政権が誕生したことだと思うと指摘し、「少なくともプーチンの目には、ゼレンスキーがバイデンの応援や了解のもと、急速に対ロ強硬政策に舵(かじ)を切ったように映っただろう」と記している。
冷戦後の新保守主義、いわゆるネオコンとして有名な米国のヌーランド国務次官は、バイデン副大統領時代からウクライナ政策に深く関わってきた。ウクライナの反ロ感情と、ロシアを弱体化させるというネオコンの思惑が合致した結果が今日の事態とも言える。その意味では、バイデン政権の足元が揺らげばウクライナ支援にも影響するとロシアは見ているだろう。バイデン大統領の自宅や事務所から副大統領時代の機密文書が見つかった問題は波紋を広げ、共和党は追及の構えを見せる。
1月の日米首脳会談で、ロシアの核使用の可能性を述べたバイデン発言を岸田文雄首相が支持したとして、ロシアのメドベージェフ前大統領が「広島と長崎の悲劇の犠牲者への裏切りだ」と反発した。米国が唯一の核兵器使用国であることに言及がないとも批判した。
5月の主要7カ国(G7)首脳会議の開催地は被爆地・広島だ。プーチン政権は広島G7を視野に何らかの布石を打ってくるとの見方もある。G7がウクライナ戦争を激化させる触媒となる可能性があり、それに被爆地・広島が政治利用される恐れがある。核兵器を持っていい国と持ってはいけない国との線引きなどしてはならない人類史的意義を持つ広島が、どこまでそれにあらがえるのかも焦点となるだろう。
今のままでは、開戦1年の成果が必要なロシアは反転攻勢を強める一方、西側はウクライナへの兵器支援のレベルを引き上げ、ますます泥沼化するだろう。しかし、我々が依拠すべきなのは、あらゆる核兵器とあらゆる戦争に反対するヒロシマの精神ではないか。即時停戦の模索を訴え続けたい。(朝日新聞編集委員兼広島総局員・副島英樹)
※AERA 2023年2月13日号より抜粋