ある意味では、1968年以降の活動の総決算的もものを意図したのかもしれない。たとえば、前作のタイトル・トラックということにもなく「ハウス・オブ・ザ・ホリー」がはじめてここで公開されているし、おしゃれな印象の「ダウン・バイ・ザ・シーサイド」は4作目、ペイジが弾くアコースティック・ギターのみのインストゥルメンタル「ボン・イ・アー」は3作目のアウトテイクだった。こうした数年間を俯瞰するような制作姿勢が、『フィジカル・グラフィティ』にほかの作品とは異なる表情を与えているのかも知りない。
もう一度、写真を見ていただきたい。向かって右側の階段は、ローリング・ストーンズとそのスタッフたちが「ウェティング・オン・ア・フレンド」のミュージック・ビデオの撮影に当たって、目をつけた場所だ。
階段の上で誰かを待っているミック。タバコを吸いながら、歩いてきたキースと彼が楽しそうに語らい、二人は近くのバーに向かう。そこにはロン、ビル、チャーリーもいて、やがて彼らは楽器やマイクに手を伸ばす。深さはないが、80年代初頭のニューヨークを舞台に、ストーンズというバンドの本質を示してくれたような、いい作品だった。ツェッペリンとストーンズ。同じような建物がいくつもあるはずなのに大物バントが揃って関心を持つこととなったこのテネメントには、なにか神秘的な魅力があるのかもしれない。近々ニューヨークに行く予定があるという方は、ぜひとも、その目で。(音楽ライター・大友博)