僕の写真がいい例だが、歩道から撮影すると、パースペクティヴの効いたものになってしまう。制作スタッフたちは、なんらかの方法で、完全に正対できる高さから撮影し、2つの建物の境界線をその中心に据えた。そして、ジャケット・サイズの正方形に納めるため、1階分をきれいに削除したうえで、エッチングのような効果を加えている。この段階でアーティスト名とタイトルを刷り込んでいたら普通のジャケットで終わっていたかもしれないが、メンバー、とりわけジミー・ペイジのこだわりはその程度のものではなかった。16の窓をくり抜き、インナースリーヴや2枚のレコードの内袋の向きや順番によって異なる要素が見えるようにしたのだ。出荷時点では表側には赤い文字でタイトルが浮かび上がり、裏側がそれぞれの部屋のカーテンが閉まっている状態。内袋の裏表計4面にはメンバー4人や著名人、歴史上の人物などが写真や絵などで印刷されていて、それぞれのサイドがなにかを語りかける。アパートを遠くから写した映像をいかした映画を観ているような印象だ。

 さて、ジャケットの話ばかりを書いてしまったが、このアルバム『フィジカル・グラフィティ』はレッド・ツェッペリンがバンドとして岐路に立っていたことを示す作品でもあったらしい。アルバム・セールス、ツアーの規模などあらゆる面で頂点を歩んでいたバンドから、4人のうちではもっとも寡黙な男という印象が強いジョン・ポール・ジョーンズが離れようとしていたというのだ。数万人の前で演奏する日々、歓声、嬌声、狂躁。そういったものに耐えられなくなってきたのかもしれない。ロック界そのものから離れようとすらしていたようなのだ。ジミー・ペイジ同様、早くからスタジオ・ミュージシャンとして多方面で働いてきた豊かな経験を持ち、ベースだけでなくキーボードやマンドリンなどもこなす彼が抜けてしまうことは、大きな打撃となるはずだった。

 それが理由だったかどうかはわからないが、彼らは、アルバム1枚分の曲の録音を終えたあと、それまでのレコーディング・セッションで残されてきた未発表テイクとあわせて、LP2枚組の作品として発表することを決めた。

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