「受動喫煙防止法案」が骨抜きにされる可能性が濃厚だ。このままでは、屋内での喫煙が事実上野放しとなり、2020年のオリンピック・パラリンピック(オリパラ)で、我が国は、「喫煙天国日本!」として世界に恥をさらすことになるだろう。
問題は内容だけではない。時間的にもほとんど手遅れになりそうな状況だ。オリパラとそれに先立って来年に開催されるラグビーのワールドカップに間に合わせるためには、本来は昨年の夏に成立させても遅いと言われていたのだが、これまで安倍政権はずるずると結論を先延ばしにしてきた。
では、ここまで遅れた原因は何か。
少なくとも、やるべきことがわからなかったということではない。
まず、受動喫煙が健康に深刻な被害をもたらすことは様々な科学的なデータが証明している。受動喫煙は肺がんになるリスクを1.3倍高め、日本では年間1万5000人が亡くなる。また、こうした健康被害による医療費は年間3000億円だ。国の財政、すなわち、国民の財産にも大きな損害を与えている。
したがって、受動喫煙ゼロを目指すことは、オリパラがなくても、日本にとって議論の余地などない政策課題だと言っても良いだろう。
次に、国際オリンピック委員会(IOC)も世界保健機関(WHO)も「たばこのない五輪」を求めている。最近のオリンピック開催国(カナダ、英国、ロシア、ブラジル)は飲食店を含めて「屋内禁煙」を法律や条例で定めた。これまでに屋内禁煙を法制化した国は40カ国以上だ。オリンピックを開催するのに屋内禁煙を実施できないということになったら、日本は世界に恥をさらすようなものだ。17年4月に訪日したWHO幹部は、喫煙室を設けて分煙したつもりでも煙が漏れ出るのを完全には防げないという科学的データを示して、「完全禁煙」を強く要請したそうだ。日本に対する強烈な警告と見るべきだろう(詳しくは17年6月19日の本コラム「安倍首相に見捨てられた塩崎厚労相の最後の頼みは小池旋風」参照)。
世界中に例があるのだから、それを後追いする政策を作るのは簡単だ。創造力はなくてもものまねはうまい日本の官僚の最も得意とするところだから、法案を作ることなど1週間もあれば十分だろう。
それにもかかわらず、未だに法案の内容が決まらないのは、安倍政権にやる気がないからである。