ロビー・ロバートソンの著書『Testimony』
ロビー・ロバートソンの著書『Testimony』
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大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など
大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など

 2016年にノーベル文学賞を受賞したボブ・ディラン。その年に、彼が“とんでもない”アルバムをリリースしていたことをご存知だろうか。音楽ライターの大友博さんが解説する。

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 一昨年2016年の秋にリリースされたボブ・ディランの『ザ・1966ライヴ・レコーディングス』は、とんでもない内容のライヴ・アルバムだった。

 タイトルが示すとおり、発表時からみるとちょうど50年前ということになる1966年収録のライヴ音源をまとめたものだが、23公演を記録した、ほぼ同じ選曲のディスクがなんと36枚! ボックス・セット仕様で、手にしたときの重量感は半端じゃない。通して聴いたら二日近くかかるという、繰り返して書くが、とんでもない内容のライヴ・アルバムだった。

 まさにディランだからこそ許されたことであり(ちなみに、このアルバムが発売されたころ、彼はノーベル文学賞を授与されている)、50年前に残されたライヴ音源の素晴らしさ、意義深さのようなものが、彼と周囲の人たちを「やはり、きちんとした形でまとめたい」と思わせたのだろう。

 そのボブ・ディランの1966年ツアーの初日は、2月4日。52年前のこの時期のことだった。そこで彼のバックを務めたのは、2年後の1968年にはザ・バンドの名前で『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』を発表し、エリック・クラプトンをはじめとする同世代のアーティストたちに強烈な刺激を与えることになるザ・ホウクス。ロック文化にとっての大きなターニングポイントでもあった1966年を代表する事件とも呼べるこのツアーを、ザ・バンドの中心人物だったロビー・ロバートソンの著書『Testimony』(ザ・ラスト・ワルツ40周年の2016年秋に出版された、いかにも彼らしい筆致のメモワール。今年夏には翻訳版が出るようだ)を参考に振り返ってみたい。

 少しさかのぼるが、1965年6月15日から16日にかけてニューヨークのスタジオで「ライク・ア・ローリン・ストーン」を録音したディランは、翌月25日、エレクトリック・バンドを従えての、初の公式ライヴを行なっている。このとき彼のバックを務めたのは、ギターのマイケル・ブルームフィールド、キーボードのアル・クーパーら、「ライク・ア・ローリン・ストーン」のセッションにも貢献したミュージシャンたち。ニューポート・フェスティバルでの、会場全体からではなかったとはいえ、ブーイングを浴び、物議をかもすこととなった、あの歴史的ライヴだ。

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