だが、この日の岡崎は雪辱に燃えていた。「昨日は大事な場面でスクイズを失敗して、“絶対にやり返す”という強い気持ちで打席に入った」と気力を集中させ、メンドーサのチェンジアップを一振すると、左越えの逆転2ランとなった。
プロ13年目の初本塁打でチームの勝利に貢献したばかりでなく、8回にも中前安打を放ち、8年ぶり2度目の猛打賞といううれしいオマケ付き。
お立ち台で目を潤ませた岡崎は、「まだまだ下手くそなんで、失敗もすると思いますが、絶対にやり返すという気持ちで頑張っていきたい」とさらなる活躍を誓った。
金本監督が「今日の活躍が生涯最高で最後に……、ならないように頑張ってほしい」とエールを贈ると、岡崎は翌4日の日本ハム戦でも3対3の延長11回1死満塁のチャンスに、13球粘った末、左翼線にサヨナラ打。もちろん、プロ13年目で初めてのサヨナラ打だ。
「生涯最高で最後に……」のコメントをたった1日で覆される形となった金本監督も「人生、変わってきましたね。2日続けて太一が決めるとは……」と苦労人の連日の快挙に細い目を一層細めていた。
即戦力と期待されたドラ1右腕が、戦力外通告、メジャー挑戦などの回り道を経て、苦節10年の末、プロ初勝利を挙げた。
男の名は村田透。07年の大学・社会人ドラフトで巨人に1巡目指名されたが、一度も1軍のマウンドに上がることのないまま、3年後に戦力外通告。「この先やっていけるのか? 無職になる」の不安と闘いながらも、「野球を続けたい」一心で渡米。マイナーから努力を重ねてメジャーに這い上がった。
そして、2016年オフ、日本ハム・栗山英樹監督が「どうしても欲しかった投手」とラブコールを送り、7年ぶりの日本球界復帰が実現した。
その期待に応え、2017年は開幕1軍スタート。6月11日、古巣の巨人戦(札幌ドーム)でシーズン5度目の先発のマウンドに上がった。恩返しの意味でも、何としても勝ちたい相手だ。
初回、先頭の陽岱綱に中前安打を許したが、石川慎吾を遊ゴロ併殺。マギーを三振に打ち取り、無失点で切り抜ける。
味方打線も西川遥輝の先制2ランなど前半に計4点と強力援護。5回にクルーズにタイムリー二塁打を許したものの、5回を6安打1失点と要所を締めた村田は、勝利投手の権利を得てマウンドを降りた。
そして、6回以降は、谷元圭介、鍵谷陽平、マーティン、玉井大翔のリリーフ陣が無失点リレー。最後は守護神・増井浩俊の史上59人目、65度目の1球セーブという珍記録のおまけも付いて、5対1と快勝。この瞬間、プロ10年目の悲願の初勝利が実現した。
お立ち台に上がった村田は「やっと来れたというか…」と言葉を詰まらせ、「いろいろあった。長い道のりだった。まだ1勝目ですが、これから(勝利を)続けられるように頑張ります」と力強く誓った。
栗山監督も「村田のあの言葉を聞いてると、良かったなあと思う」と感無量の面持ちだった。
●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。