羽生自身も絶対の自信を持つ得意技・トリプルアクセルは高い加点が望めるため、2回跳べることには大きな意味があるのだ。ロシア杯の結果としては、フリーでは1位だったもののショート1位のネーサン・チェン(米国)との差を詰め切れず総合2位に終わったが、挑戦し続ける意志を4回転ルッツの成功という形で示したと言える。
結局、ロシア杯のフリーでは4回転ルッツを初めて成功させた一方、プログラム全体での4回転は3本にとどまったが、羽生は「滑り込みが足りないだけ」と前向きだった。ロシア杯後の羽生は「ジャンプをどう曲に溶け込ませて跳ぶか」という課題を克服する練習を積んできているはず。グランプリシリーズ2戦目の出場となるNHK杯では、フリーで4回転を5本入れるという完成形にどこまで近づくことができるかが焦点となる。シーズンオフに「試合に向けてのピーキングが何より今シーズン大事だと思う」と語っていた羽生にとって、平昌五輪までの試合の一つひとつが貴重な経験の場となるだろう。
一昨年、平昌五輪後は競技から退くとしていた羽生だが、ロシア杯終了後に「いつやめるかは全然決めていないので。将来的には(4回転)アクセルをやりたい」「さすがに平昌前は厳しいかなと思う」と語っている。4回転の進化が著しい男子シングルスの現状が、羽生の向上心に火をつけたのか。NHK杯では、日本の観客の前でどんな進化を見せるのだろう。挑戦し続ける今の羽生結弦に、限界はない。(文・沢田聡子)