ドラフトで将来を嘱望された選手を指名するだけに留まらず、彼らが育つ環境をしっかりと作っている。「選手教育ディレクター」なる役職を置いているのもその表れで、野球の技術習得だけではなく、人として1段階も2段階も成長できる教育を施している。

 その育成方針とは自分で考えて行動する人間を育むことだ。

 指導者からの指示を待つのではなく、自身で考えて行動にうつす。グラウンドでの姿勢、グラウンド外での立ち居振る舞いのすべてが個々に任されている。そのため、アマチュア時代のような強制練習で育ってきた選手ではなかなかなじめないのだ。考える力を持っている選手、あるいは、それが引き出されるタイプが日本ハムの育成環境には合うのである。

 安田は父親が社会科教諭ということもあり、幼少期から歴史書を読みあさってきた。日本史の偏差値は70を超えるほどで、読書を通して得た知識や物事を理解する能力にもたけている。取材での受け答えも高校生とは思えないほど落ち着いていて、会話の内容もレベルが高い。日本ハムはファームで読書の時間を設けているというほどだから、本人は何の苦も無く、チームに入っていくはずだ。安田のスタイルは、日本ハム入団で大きく引き出されるはずだ。

 続く指名候補として目指したいのは即戦力より高校・大学生の伸びしろのある選手だ。

 素材系の投手が地方に多く隠れているが、この夏の甲子園で控え投手ながらに驚愕させた地元・北海の阪口晧亮は将来のエース候補になり得る。ストレートの最速が148キロを計測し、スライダーとカットボールを投げ分ける。186cmの長身からの角度もあり、将来性を感じさせる。有原航平、高梨裕稔ら、長身投手を育てている実績もある。出身は大阪だが、地元の高校出身選手は抑えておきたいはずだ。

 野手では捕手以外での補強を目指したい。リードオフマンタイプ、あるいは、3番打者で右打ちである方が理想的だ。2年連続夏で甲子園に出場し、U18日本代表で活躍した増田珠(横浜)は適任だろう。昨季、陽岱鋼がFA移籍して中堅手に穴が空いた。岡大海や大田泰示が当面は「右打ちの外野手」を担っていくが、高校生を獲得することで年齢バランスも埋めたい。日本ハムには高校の先輩も多く、環境としては最適なはずだ。(文・氏原英明)

<日本ハムが狙うべき選手の優先順位>

安田尚憲(履正社)
阪口晧亮(北海)
増田珠(横浜)

●プロフィール
氏原英明
1977年、サンパウロ生まれ奈良育ち。地方新聞社勤務を経て、03年からフリーライター。夏の甲子園は03年から大会をすべて観戦取材するなど、アマチュア野球に精通。現在のプロ野球選手のアマチュア時代を知る強さを生かし、プロの現場でも成長ぶりを追いかける。一方、最近では個性がどう生かされているかをプロアマを問わず観戦の主眼に置いている。

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