それらの課題にどう向き合っているかを尋ねた時、今年3月末の時点で錦織は「試合から学ぶことが一番大きい。試合を振り返り、どういう気持ちだったか、どのような持ち方でやればよかったかというのを、コーチたちとよく話し合う」と即答した。本人やコーチ陣たちが、精神的な側面からも、課題の克服に取り組んでいるのは間違いない。
同時に、精神的な不安や自信は、技術と綿密に結びついている側面もあるだろう。
例えば今季の全仏オープンで優勝したラファエル・ナダルは、苦しいシーズンを送った2年前には「フォアに自信が持てず、試合中の緊迫した場面になると『フォアはどう打つのか、どのように腕を振るべきか』と考えてしまう」と繰り返していた。これらの独白はともすると、精神面の問題のように響く。だが、今季からナダルのコーチに就任した元世界1位のカルロス・モヤは、抜本的な問題は「打ち方」にこそあったと明言した。
「彼のフィジカルは変わっている。以前のような爆発的な強さは失われつつある。だから打ち方も変えなくてはいけなかった」
そこでナダルは昨年末、フォアハンドの微調整に取り組んだ。モヤらコーチが仔細にチェックするなか、まずは反復練習を繰り返し、徐々に実戦の動きの中に組み込んでいく。そうして今、再びフォアはナダル最大の武器となり、本人も「自信を取り戻せた」と断言した。
これと似た話を、実はアンディ・マリーも口にしている。今季はケガや体調不良で苦しいシーズンを送っている世界1位は、特に4、5月頃には「試合中に、どのショットをどこに打つべきか分からなくなり、焦って誤った判断をしてしまう」悪循環に陥っていたという。そこで彼が取り組んだのは、「ポイントパターン練習を、ひたすら繰り返すこと」。複数のパターン練習を重ねることで、やがては「考えなくても正しいコースにボールを打つ、“自動操縦モード”に入った」と彼は言った。
錦織が今抱えるもどかしさの原因と解決の糸口が、どこにあるかは分からない。ただ一つ確実に言えるのは、世界1位や複数のグランドスラム優勝を経験したナダルやマリーですら、同様の苦しさや壁に直面してきたことである。
そしてその度に、もがき、打開策を見つけたからこそ、彼らは今の地位にいるという事実だ。(文・内田暁)