表面麻酔した鼓膜にデキサメサゾンというステロイドを直接、注射器を使って注入する。注入自体は、ほんの数秒だが、内耳に浸透させるために30分は横たわり、その間嚥下は極力我慢する。つばを飲み込んでしまうと、のどの上につながっている耳管を通して、ステロイドが流れていってしまう可能性があるためだ。

 小嶋さんは週に1回、合計3回のステロイド鼓室内注入と、神経保護の役割があるビタミン剤などの点滴を受けた。2週間後、再度聴力検査をしたところ、聴力は30デシベルまで改善し、最終的には左耳と同じ、正常レベルである20デシベルまで回復した。

「小嶋さんはめまいを伴うこともなく、極めて重度の難聴ではなかったことと、発症から比較的早めに治療を開始できたため、聴力はここまで回復しました。初めの聴力がさらに悪い場合や、めまいを伴った場合はここまで回復しなかったかもしれません」(寺西医師)

 突発性難聴の原因は、耳の血流が悪くなることで難聴が起きる「血液循環障害」などと言われているが、現在もわかっていない。

「近年では高齢者での突発性難聴の発症数が増加しています。小嶋さんのように糖尿病があったり、高血圧があったりする患者さんが増えてきている背景には生活習慣病との関連もあると考えられます。また、睡眠不足や疲労、ストレスなどが突発性難聴の発症リスクを高めている可能性もあり、これらを防ぐことが、発症予防対策にもつながります」(同)

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