けれど、記者に手渡された用具は、やはり馴染みのないものだ(銃剣道では武器と防具という呼称は用いず、合わせて「用具」と呼ぶ)。まずは「木銃」。先端に銃剣を取り付けた歩兵銃を模した木刀で、長さは166cm。主に樫の木が使われており、手に持つとずしりと重い。生身の人をこれで突いたら確かに軽傷では済まないだろう。
だがそれを補うように、身を守る用具の方に配慮が見える。
頭部と喉を保護する「面」、腹部を守る「胴」、下腹部を覆う「垂れ」、前腕部の「小手」(左手のみ)は剣道でも使われるが、さらに「胴」の下に付けて左胸を保護する「裏布団」、左肩と胸を守る「肩」、右手につける手袋状の「指袋」が加わる。銃剣道では胴・喉・肩・左小手を突くため、剣道よりも自ずと用具が厳重になる。
競技者たちはどんな稽古をするのか。
記者はまず子どもの部に参加するよう指示された。そこには小学3年生と2年生の男の子がふたり。先出の渡邉さんの指導のもと、行われたのは「基本技」の反復練習だった。
木銃を右手に直立し、「構え」の号令とともに構え、「突け」の号令で突く。野球における素振りのように、それを繰り返す。
正直に述べれば、その姿をみて記者が連想したのは戦時中の軍事教練を行う軍国少年だ。「構え」「突け」の号令に時折混ざる「回れ右」という掛け声も、そんなイメージを補強する。
だが、実際に体験してみると、一連の動作にはさまざまな決まりごとがあることに気付く。背筋はまっすぐと伸ばす。構えたとき、木銃の柄(取っ手)を握る右手は右腰骨のあたりに置く。突くときは、左腕をまっすぐに――子どもたちがそつなくこなす一方で、慣れない記者はすぐに動きがちぐはぐになってしまう。「こうした所作がきちんとできていないと、試合では1本(有効突き)になりません」(渡邉さん)
これは剣道など、ほかの武道でも同じだ。地道に「型」を繰り返すことで所作を身体に染み込ませ、同時にそれが肉体と心の鍛錬になる。これが武道の真髄であり、「銃剣道も同様」と渡邉さんは強調する。
「現在の銃剣道は戦前の戦技的内容を完全に払拭し、近代スポーツとして発展してきたものです。スポーツ性を高めるため、ルール変更も何度も行われています。競技の目的を「人間形成」としており、その精神は、剣道などのほかの武道と変わらないと思います」