右ウィングのポジションは進境著しい久保裕也に奪われた感があるものの、仮想イラクのシリア戦ではインサイドハーフとして新たな可能性を示した。ぶっつけ本番のポジションだったにもかかわらず、持ち前のキープ力とゲームを組み立てる能力で前半に不振を極めたチームを立て直した。もちろん、相手が後半になって動きを落としたことは考慮しなければならないが、それまでなかった中盤でのゲームメークが本田のインサイドハーフ起用を機に見られるようになったのは確かだ。
香川真司がシリア戦で肩を脱臼して離脱している今、プレッシャーのかかる一戦において中盤でゲームを作る能力と経験を有するという点において、本田の右に出る選手はいない。本人も「攻守において、コントロールしないといけない。それは経験みたいなものが非常に重要。選手が意外に若く、新しい選手もいますし、試合までのアプローチも非常に重要になってくる」と話し、「駆け引きで勝たないといけない。そういう意味では僕のやるべきことは試合前でもそうだし、試合中も多い」と自身の果たすべき役割を認識している。
本田にはワンテンポを置きたがる癖がある。昨年10月、アウェーでのオーストラリア戦で、原口元気のゴールをアシストした際に発したコメントが象徴的だ。
「俺が持った時に元気はいつも早く動きだす傾向があったので、(香川)真司とかキヨ(清武)はそのタイミングで出すんだけど、俺はもうひとつタメて出したいから一つ遅れて出てくれと言っていた」
香川は相手の飛び出すタイミングに合わせてパスを出すが、本田は自分のところでいったんタメを作ってからパスを出す傾向が強い。自分のところで時間をつくろうとするので、テンポが遅くなると批判されることもあるが、バタバタした展開の中では試合を落ち着かせることができるというメリットもある。シリア戦ではそのプレースタイルが奏功した。
シリア戦後、本田は好パフォーマンスを見せたにもかかわらず取材に応じず、イラン遠征中の取材対応日でもわずかな質問で切り上げた。これはザックジャパン時代の姿と似ていて、イメージを自分の中に刷り込む際の“儀式”のようなものだ。
本田は準備を進めている。あとはそれを本番で生かすだけだ。(文・神谷正明)