古いかやを外すとふいた当時の明るい色の部分が出てくる
古いかやを外すとふいた当時の明るい色の部分が出てくる
五箇山・菅沼合掌造り集落での屋根ふき替え作業
五箇山・菅沼合掌造り集落での屋根ふき替え作業
班長を務める沼口和美さん
班長を務める沼口和美さん

 岐阜・富山の県境を挟んで連なる「白川郷・五箇山の合掌造り集落」。1995年に世界文化遺産として登録された。五箇山には「菅沼」と「相倉(あいのくら)」という合掌造りの集落がある。ここで合掌造りのかや屋根のふき替え作業が行われると聞き、密着してみた。

 ふき替え作業は20年に一度行われる。かつて「結(ゆい)」という相互扶助組織により、総出であたった。しかし、地域住民の高齢化に伴う労働力不足によって、約40年前から、富山県西部森林組合砺波支所に所属する専門職員のチームが作業を担っている。

 チームの班長として指揮を執る沼口和美さん(47)によると、屋根のふき替え作業は、班員7~10人がおよそ1カ月かけて行うという。足場を組んで「古かや」を外した後、中の骨組みの折れた部分や、縄が緩んだ箇所を修繕し、破風(はふ)といわれる屋根の側面部分を形作ってから、破風の高さに合わせて全面に新しいかやをふいていく。その間、家主は合掌造りの中で日常生活を送ることができるそうだ。

 ゴールデンウイーク明けには、菅沼集落の北家で南側の屋根をふき替える作業がスタートした。班員が最上部からつるしたロープを伝って急な傾斜を降り、古いかやを引き抜いてく。一抱えずつ縄で束ねて落とし、足場にたまった古かやを集めて運び出すには2日間もかかる。天候の影響を受けやすく、なかなか計画通りにはいかないそうだ。

「雪が降らない時期は、ほぼ仕事が詰まっています。五箇山には70棟近く合掌造りがあるので、4月から11月までどこかの家が屋根のふき替えをしていることになります。真夏は扇風機をまわしながら、晩秋の時期は寒風に吹かれながらの重労働です」(沼口さん)

 北家の屋根の大きさは、縦8.6メートル、横19.3メートル。膨大な量のかやが必要である。この地区には「かや場」があるので、ほぼ地産地消。秋に刈り、倉庫に立てて置いたり、雪囲いに使ったりしてかさを減らしてから使う。外した古かやも膨大だが、ごみにはならない。近隣の農家が持ち帰り、スイカやカボチャの畑では地表を覆って乾燥や泥はねなどを防ぐ「敷きわら」の代わりに、ほかの野菜を栽培する耕作地でも肥料とするなど、無駄なく使い切るという。

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